第64話
ラーシャから語られた衝撃の証言を受け、ギルバートは直ちに側近のリチャードを通じ、黒幕である「マスター」の行方について極秘調査を徹底的に進めさせていた。
それと同時に、厳戒態勢の中、王立高等学院に通う弟のアランと、ヴェルツ領から父親のロバートがレイヴン邸へと到着した。
「お父様! アラン! よく来てくださいました……!」
玄関の扉が開くなり、エカテリーナはぱっと顔を輝かせて駆け寄り、愛する家族を温かく迎え入れた。
ロバートとアランは安心したように息をつき、ギルバートに向かって深々と頭を下げる。
「この度は、私たちの身の安全のためにこのような厳重な保護をいただき、レイヴン侯爵様に心より感謝申し上げます」
「ありがとうございます、義兄上」
二人の言葉に、ギルバートは静かに頷きながら「無事で何よりだ。ここなら俺の結界と警備で絶対に害は及ばない。安心して過ごしてくれ」と頼もしく告げる。
その様子を見て、エカテリーナはきらきらとした笑顔でギルバートの腕に軽く触れた。
「バート、ありがとう! あなたがすぐに対応してくれたおかげだわ!」
「いや、俺が気づいたというよりは……」
気恥ずかしそうに目を泳がせたギルバートは、「リチャードが危機を察知して進言してくれたおかげだ」と正直に明かす。
それを聞いたエカテリーナは「まあ、リチャード、ありがとうございます!」と、すぐ傍らに控えていた側近にもパッと満面の笑みで頭を下げた。
その後、リチャードの的確な案内により、ロバートとアランの客室への割り振りと荷ほどきもスムーズに完了した。
* * *
一連のバタバタが一段落し、落ち着いた頃。
エカテリーナとラーシャは、いつものように客間で穏やかな時間を過ごしていた。
もともと勉強熱心だったラーシャは、事件のせいでこのような形になってしまったものの、「学校で学ぶ授業が本当に楽しかったんです」と目を輝かせていた。
そのため、エカテリーナは微笑ましい気持ちで、彼女にテキストを開いて勉強を教えてあげていたのだ。
そこに、コンコンと軽いノックの音が響き、アランが顔を覗かせた。
「カティ姉さん、ちょっといいかい?」
「あら、アラン。荷物の片付けはもう終わったの?」
弟の姿にエカテリーナが振り返ったその瞬間、アランの視線は彼女の隣にちょこんと座っている少女へと向けられた。
「……姉さんの隣の、その人は……?」
初めて見る紫色の髪の美少女を前に、アランはわずかに目を丸くする。
「こちらはラーシャよ。ちょっと訳があって、今は安全のためにこの屋敷に一緒に住んでいるの」
エカテリーナが紹介すると、ラーシャは小さく緊張した面持ちで「はじめまして、ラーシャです……」と頭を下げた。
アランも少しだけ頬を朱に染めながら、「……はじめまして。僕はアランだ。カティ姉さんの弟なんだ」と挨拶を返す。
その瞬間、年の近い美男美女である二人の間に、どこかピリッとしたような、それでいて甘酸っぱいような、ほんのりとしたドキドキの空気が漂った。
(……おや?)
二人の様子を間近で観察していたエカテリーナは、心の中で思わずクスリと笑った。
(なんだか、アランがすごく緊張しているみたい。それに、ラーシャも少し頬が赤くなっているような……?)
思いがけない初々しい青春の気配を感じ取ったエカテリーナは、そっとひらめいた。
(よし、二人きりにしてあげましょう。ラーシャの身の安全はアランがついてれば大丈夫だし、このお屋敷の中なら安全だしね……)
「ねえ、アラン。……ちょっと私、ピーチパイをとってくるわね! しばらくラーシャと一緒にいてあげてもらえる?」
「えっ、僕が……?」
戸惑うアランをよそに、エカテリーナは「よろしくね!」と楽しそうにウィンクをしてみせ、わざとらしくその場をスッと離れた。
* * *
――廊下に出たエカテリーナは、ふふふ、と隠しきれない笑みを零す。
(アランたら、ラーシャの顔を直視できなくてあからさまに顔が赤くなっていたわ! すっごく可愛い反応しちゃって……。バートがわざわざ取り寄せてくれた特製のピーチパイを、おやつに持って行ってあげましょう!)
可愛い弟と新しい妹のようなラーシャの微笑ましい恋の予感に胸を弾ませながら、エカテリーナはルンルンと軽やかな足取りでメイドのシビルのもとへ急ぐのだった。




