第35話
妖精たちから知らされた「十三年越しの真実」。
あの出会いから今日に至るまで、ギルバートがずっと自分を見守り続けてくれていたという事実は、エカテリーナの胸の奥を激しく揺さぶった。
――彼は、最初からずっと私を求めてくれていたんだわ。
――私を、一人の女性として、愛してくれている。
胸の奥底で、それはもう疑いようのない確信へと変わっていた。
これまでのギルバートのすべての行動が、一本の線で繋がっていく。
彼が自分に向ける温かい眼差しも、不器用な優しさも、すべてが深い愛情に裏打ちされたものだったのだと気づけば気づくほど、胸の奥は甘く熱いもので満たされていった。
(バートは、本当に私のことを愛してくれている……)
嬉しさと、どうしようもないほどの愛おしさに包まれ、ふわりと心が宙に舞うような心地がする。
けれど――その幸福感に浸りかけた瞬間、エカテリーナの足取りがピタリと止まった。
――いや、違う。喜んでいる場合じゃないわ。
医師から告げられた余命は、あと一年半ほどしかない。
もし本当に、ギルバートと自分が相思相愛になり、心から愛し合うようになったとして――そのあとで、自分が死んでしまったら。
(――バートが、どれほど悲しむか……)
自分が死んだあとの彼を想像するだけで、心臓が握り潰されるように痛んだ。
ギルバートほど自分を深く愛してくれている人が、最愛の妻を失ったら――どれほどの絶望と悲しみに暮れるだろう。これほど深く一途に自分を想ってくれている彼に、そんな残酷な未来を背負わせるわけにはいかない。
(だったら……)
エカテリーナはぐっと拳を握りしめ、震える唇を噛み締めた。
(私は、当初の予定通り、契約期間が来たら彼の元を離れなければならないわ)
これ以上、彼の心を自分に縛りつけてはいけない。自分なんかを本気で愛させてしまったら、残された時間は彼を永遠の悲しみに突き落とすことになってしまう。
だからこそ、彼の深い愛情に気づいていないふりをして、これ以上甘えてはならないのだと、エカテリーナは必死に自分に言い聞かせた。
それからのエカテリーナは、意識して態度を変えるようになった。
相変わらず、仲良く穏やかな夫婦を演じてはいるものの、どこか以前のような無防備な甘えが消え、少しだけよそよそしく、一歩引いた距離を保つように努めたのだ。
食事の席で不意に優しく頭を撫でられても、そっと身を引いてかわしたり。
これまでは嬉しそうに受けていたスキンシップも、どこか事務的な笑顔でやり過ごしたりする。
(ごめんなさい、バート……。これ以上、あなたを私に縛りつけないために……)
心の中では泣き叫びたいほどの痛みを抱えながら、エカテリーナは必死に冷たい仮面を被り続ける。
だが、そのあまりにも不自然な変化に、夫であるギルバートが気づかないはずもなかった――。




