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冷徹な聖騎士様は、地獄を脱出した元令嬢を溺愛したくて仕方がない〜実は十三年前から初恋でした〜  作者: 銀文鳥


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第20話


「あの時、俺を……あなたが救ったんだ。ずっと、忘れたことなどなかった」



静かな水辺に響いたその告白に、エカテリーナは大きく目を見張った。



――やっぱり、間違っていなかった。



目の前にいる冷徹な「氷の騎士」が、あの日の、あの不器用な銀髪の少年だったのだ。あの時、怯えながらも一生懸命だった小さな坊やが、今やこんなにも凛々しく、頼もしい大人の男性へと成長している。


十三年という歳月を経てふたたび巡り合えたことに、胸の奥から甘い期待と、どうしようもない喜びが一気にこみ上げてくる。




しかし、エカテリーナの脳裏に、かつてギルバートと交わした冷たい言葉が鮮やかに蘇ってきた。



――『愛はないから、安心してくれ』




プロポーズの時、彼が冷徹な瞳ではっきりと告げたではないか。 更には、前の結婚で、心身ともにボロボロにされたトラウマが、「どうせ私なんかを本気で愛してくれるはずがない」という防衛本能を働かせる。




(そうよ……! あの時の恩返しとして、立派になった彼が私によくしてくれているだけだわ……)




十三年前に助けられた恩があるからこそ、すべては「命の恩人に対する、最高位の聖騎士なりの誠意」なのだ。あの時「愛はない」と言ったのは事実であり、自分との結婚が契約ベースであることに変わりはない。 先ほど彼が口にした「守るべきものがあった」という言葉も、最強の聖騎士としての強い使命感や、恩人に対する義理堅さゆえのものだろう。



(なーんだ……! 危うく、「私に気があるのかも」なんて勘違いして恥をかくところだったわ。本当に、私ってば調子に乗りやすいんだから……)



胸の奥でふわりと広がっていた甘い期待を、「恩義によるものだ」と必死に抑え込む。

彼が見せる優しさは、あくまで義理堅い彼なりの気遣いに過ぎない。勘違いして傷つかないよう、エカテリーナはこの心地よい関係のまま甘えていようと、自分に言い聞かせるのだった。




何も知らないギルバートは、自分の想いを伝えたという手応えからか、どこか熱を帯びた優しい表情を浮かべながら彼女の顔をじっと見つめている。




「……カティ? どうした、そんなに急に黙り込んで」



「な、なんでもありませんっ!」



慌てて取り繕うと、エカテリーナは気合を入れるように自分の両頬をパシッと両手で叩き、意を決したように表情を引き締めて言った。




「ギルバート様! 私、すべて納得しました!」



「……は? 何がだ?」



「あの時の恩を、ずっと覚えていてくださったのですね。だから契約結婚である私に、こんなにも手厚く……高価な宝石やドレスを持たせたり、アランの学費や将来のことまで面倒を見てくださったりと、大切にしてくださっているのですね!」



さらに、これ以上変な期待をしないよう、自分に言い聞かせるように付け加える。



「大丈夫ですよ! 面倒なご令嬢のことが落ち着いたら、契約通り、二年でちゃんとギルバート様と離婚しますからね!」



「いくら私が命の恩人とはいえ、いつまでも甘えてばかりではあまりに図々しすぎますからね!」



キラキラと瞳を輝かせながら、見当違いすぎる推理を堂々と、かつ「気を使っているつもり」の笑顔で語るエカテリーナ。



その言葉を聞いた瞬間、ギルバートは自分の耳を疑い、その場に凍りついた。



(……は……? 恩返し……? 離婚……だと……?)



顔を真っ青にし、全身の血が逆流するような衝撃を受けるギルバート。 せっかく十三年前の秘密を打ち明け、決死の覚悟で自分の想いを仄めかしたというのに、まさかの「恩義センサー」で綺麗に片付けられたうえ、自ら再び「二年で離婚」の契約まで突きつけられるとは夢にも思っていなかった。



「それは……っ!」



慌てて否定しようと口を開くギルバートだったが、エカテリーナは「もう何も言わなくても大丈夫です、気を使わないでください!」と満足そうに頷いてしまう。



「政略結婚だとか、そういう形をとってくださったのは、私に気を使わせないためのギルバート様の優しさだったのですね。本当にありがとうございます、ギルバート様。私、精一杯――ギルバート様の『妻役』を務めさせていただきます!」



「ち、違うっ、俺はそんなつもりで――!」



真っ赤になって必死に弁解しようとする「氷の騎士」の叫びは、エカテリーナの清々しいほどの勘違いの笑顔によって、完全に掻き消されてしまうのだった。



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