第9話︰ポケット
北風が街路樹の葉を勢いよく吹き飛ばし、季節が本格的な冬へと差し掛かっていた。
「寒っ……!」
僕は首をすくめ、息を白く吐き出しながら吐息で手を温める。ポケットに手を入れたいけれど、手袋を忘れたせいで指先がすっかりかじかんでいた。
隣を歩くこころを見ると、可愛らしい真っ赤な手袋をはめている。
「ふふん、寒そうねかける。手袋忘れたの?」
「う……まあね。男は黙って我慢だよ」
「強がらなくてもいいのに。……ほら、これあげる」
「えっ?」
こころは自分の左手の手袋をパッと外すと、それを僕に差し出してきた。
「片方ずつ使えば二人とも暖かいでしょ。はい!」
「え、でもそれじゃこころの左手が寒くなっちゃうじゃん」
「いいの! だって今日の勝負、もう思いついたんだから」
こころは強引に僕の手袋をしていない右手をギュッと掴むと、そのまま自分のコートのポケットの中に放り込んだ。
「……っ!?」
ポケットの中で、こころの温かい素手が僕の手に重なる。手袋よりもずっと暖かくて、心臓が跳ね上がった。
「今日の勝負はもちろん『手袋』よ! 片方ずつの手袋とかけまして!」
「お、おい……! ポケットの中で手をつなぐなよ……!」
「いいから! かけると私の手袋とかけまして、これからの私たちと解く!」
「……その心は!?」
「どちらも『にこにこ(2個2個/ニコニコ)』でしょう! ここっちです!」
「……っ!!」
ストレートすぎる解と、ポケットの中のぬくもりに、僕は頭がどうにかなりそうだった。顔が火照って、寒さなんて一瞬で吹き飛んでしまう。
「……す、スピード50点……言葉遊び50点……100点満点です……」
「やったー! 満点! じゃあ、次はかけるの番ね」
ポケットの中の手を繋いだまま、こころはニヤニヤと僕の顔を覗き込んでくる。
脱出不能のこの状況で、僕は必死に残された理性をかき集めて言葉を探した。手袋、ポケット、温もり、二人でひとつ……あ。
「よし、整いました! 『手袋』とかけまして、潮干狩りと解きます!」
「……その心は?」
「どちらも『あったかい(温かい/あった貝)』でしょう! かけっちです!」
「……!」
ポケットの中で、こころの手が一瞬キュッと力強く握り返された。
「……ふーん。スピード50点、言葉遊び50点で【100点】ね。ってか、この前私が教えたやつじゃない!」
「へへん、同じ本借りて俺も勉強したもんね。」
「まったくもう、お互い満点だから、今日は引き分け!」
こころはそう言うと、繋いだ手をポケットの中から出そうとしないどころか、さらにぎゅっと握りしめてきた。
「引き分けだからさ。家につくまで、このままで帰ろ」
「……うん。寒くなったら困るしね」
「ふふ、言い訳が下手くそ」
木枯らしが吹き抜ける夕暮れの道を、僕たちはポケットの中でしっかりと手を繋いだまま、ゆっくりと歩いて行った。




