第10話︰明日
校庭の桜の蕾がほんのりピンク色に膨らみ始め、5年生の終わりが目に見えて近づいていた。
もうすぐ6年生。クラス替えもあるし、もしかしたら席も離れて、帰り道の時間だって変わってしまうかもしれない。
「かけっち、今日で5年生も最後だね」
ランドセルを揺らしながら歩くこころの少し寂しそうな声に、胸の奥がキュッと締めつけられる。
「そうだね。1年なんて、あっという間だったな」
「ねえ……今日の勝負で、5年生最後の決着をつけようよ」
こころは足を止め、真っ直ぐに僕を見つめた。夕陽を浴びたその瞳は、出会った頃と同じように少し悪戯っぽく、でもどこか愛おしそうに揺れていた。
「お題は『僕たちの明日』。私から行くよ!」
「……おう、来い!」
「『私たちの明日』とかけまして、茅葺き屋根の家と解く!」
「……その心は?」
「どちらも『かわらない(変わらない/瓦無い)』でしょう! ここっちです!」
「……っ!」
これからもずっと友達でいられる。そう宣言してくれたこころのなぞかけに、目頭が熱くなる。
「……スピード50点、言葉遊び50点で【100点】満点だ。最高だよ、こころ」
「ふふ、でしょ? さあ、最後はかけるの番。びしっと決めてよね!」
お題は『僕たちの明日』。
これまでの1年間が走馬灯のように駆け巡る。給食のカレー、参観日の天ぷら、雨の日の相合い傘、ポケットの中のぬくもり……全部、こころと一緒だった。
僕は深呼吸をして、しっかりとこころの目を見た。
「よし、整いました! 『僕たちの明日』とかけまして、祭りと解く!」
「……その心は?」
「どちらもずっとずっとずーーっと『はっぴー(Happy/法被)』でしょう! かけっちです!」
「……!」
こころはパチパチと目を見開いたあと、ぽろっと一粒の涙をこぼして、それから太陽みたいに弾けた笑顔を見せた。
「……スピード100点、言葉遊び100点! 合計200点で、かけるの大勝利!」
「えっ、大勝利!? いいの!?」
「いいの! だって一番最高のなぞかけだったんだもん!」
こころはパッと僕の手を握りしめると、そのまま引っ張るように走り出した。
「さあ、勝者には『一生一緒に帰る権利』をあげまーす!」
「それ罰ゲームじゃなくてご褒美じゃん!」
「文句言わない! ほら、明日からの6年生も、ずーっと勝負は続くんだからね!」
2人の勝負はこれからもずっと続いていくだろう。
「あ、もう一個閃いた!」
「なになに?」
「これまでの思い出と掛けまして、タブレット落としちゃったと解きます。」
「その心は?」
「どちらも忘れられない『ひび(日々/ヒビ))となる』でしょう!かけっちです!」
「・・・、ふふっ」
「な、なんだよ」
「あんなに嫌がってたのに、今では自分から言うなんて。面白いなーって」
「いいだろ、楽しくなったんだから」
「うん、私も楽しいよ」
夕暮れの街に、ふたりの笑い声が響き渡る。
僕たちの「なぞかけ」は、どんな未来が来たって、ずっと解けないままだ。
(おわり)
これまで紡いできた「翔とこころ」の物語、無事に最高のクライマックスで完結となりました!
1話から10話まで、ふたりにお付き合いいただきありがとうございました!




