第8話︰本
肌寒い風が吹き抜けるようになり、通学路の街路樹もすっかり黄色く色づいていた。
今日の図書の時間、僕とこころは並んで図書室のテーブルに向かっていた。
「ねえ翔、なぞかけの本、借りちゃった」
こころが嬉しそうに見せてきたのは、少し古い『小学生のなぞなぞ・言葉遊び大百科』という本だった。
「おいおい、予習なんてズルいぞ」
「ふふん、勝負に勝つための努力よ。今日の勝負は『本』で決まりね!」
そして放課後。落ち葉を踏みしめるカサカサという音をBGMに、いつもの勝負が始まった。
「じゃあ私から行くわよ! 好きな漫画とかけまして、急に氷を触ったと解く!」
「えっ、急になに言い出すんだよ……!?」
「いいから! その心は?」
「……そ、その心は?」
「どちらも『あ、つめたーい(集めたい/あ、冷たい)』でしょう! ここっちです!」
「……っ!」
こころは本で顔の下半分を隠しながらニヤニヤしている。
「どう、なぞかけ本に書いてあったの。あから始まる単語は謎解きしやすいの。集めたいとか他にもあったかい(温かい/あった貝)とか」
「なるほど、確かに・・・!」
「で、得点は?」
「……スピード50点、言葉遊び40点で、90点! 言葉遊びは面白いけど、なんかくやしいから!」
「えー、厳しーい! 」
「他にもないの?」
「あるよ。例えば○○ないって言葉はなぞかけに使いやすいんだって。例えばわっかない(稚内/輪っかない)とか、きたない(北ない/汚い)とか。」
「むむむ、確かに。こりゃ思ったよりやばそうだ。」
「それでそれで、次はかけるの番よ」
お題はもちろん「本」または「図書室」。
僕は落ち葉をけりながら、必死に頭を回転させた。図書室。借りる。ページをめくる。重なる……あ。
「よし、整いました! 本のしおりとかけまして、こぼしたシチューをぺろぺろした僕と解く!」
「あー、そんなこともあったねー。それで、その心は?」
「どちらもほんと『どうかしてるでしょう(本と同化してる/本当どうかしてる)』でしょう! かけっちです!」
「……!」
こころはパチパチと目を丸くしたあと、隠していた本をぎゅっと胸に抱きしめた。
「……ふーん。スピード50点、言葉遊び50点で【100点】ね。……悔しいけど満点よ」
「よっしゃー! 初の満点だ!」
飛び跳ねて喜ぶ僕を見て、こころは照れくさそうに呟いた。
「ほんと、上手くなっちゃってさ……。これじゃ私、負けちゃうじゃん」
「いいだろ、たまには僕が勝ったって」
「ダメだよ。私が勝たないと……かけるの秘密、聞けないでしょ」
こころは立ち止まり、抱えていた本を少しだけ低くして、僕をじっと見つめた。
「……翔の、何の秘密か、もう大体分かっちゃってるけどね」
「えっ……!?」
「『本当はこころと帰るのが一番楽しい』でしょ?」
図星すぎて、僕は声も出ずに固まってしまった。顔が一瞬で沸騰する。
「……な、なんで……!?」
「ふふ、なぞかけ聞いてたら全部バレバレだよ。翔、必死なんだから」
こころは満足そうに笑うと、「じゃあね、また明日!」と軽やかに走り出した。
本を抱えた背中が、夕日に照らされてキラキラと輝いている。
「あ、ズルいぞ逃げるなー! 僕の秘密勝手にバラすなー!」
追いかけながら、僕はふと思う。
秘密がバレても、やっぱりこの勝負は終わらない。ページをめくるように、僕たちの毎日は明日も続いていくのだから。




