第7話︰影踏み
すっかり秋も深まり、下校時間にはもう太陽が低く傾くようになっていた。
橙色に染まる通学路。僕たちの足元からは、黒くて細長い影がずーっと後ろまで伸びている。
「ねえ翔、ひさしぶりに『影踏み』しながら帰らない?」
こころがぴょんと跳ねて、僕の影の頭の部分をふんづけた。
「おい、急に始めるなよ! ……っていうか、この時間帯の影踏みって、影が長すぎてズルくないか?」
「ふふん、足が届かなくても影なら届くでしょ? ほら、逃げないと踏んじゃうよ!」
影を踏んだり踏まれたり、くだらない追いかけっこをしながら坂道を下る。
影の先が伸びて、まるで僕とこころが手をつないでいるみたいに見えて、僕はなんだか急に恥ずかしくなって足を緩めた。
「……はい、そこまで! タイム!」
「なによ、息切れるの早すぎない?」
「ちがうよ! いつものあれやるわよ。」
「あれって?」
「な、ぞ、か、け!今日の勝負を始めるよ!」
僕は息を整え、夕日に向かって胸を張った。今日こそ、この甘酸っぱい空気に呑まれずに一本取りたい。
「影踏み鬼とかけまして、帰り道と解きます!」
「へえ、自分から仕掛けてくるなんて珍しいじゃん。……その心は?」
「どちらもそこに『しゃどう(シャドウ/車道)』があるでしょう! かけっちです!」
「……!」
こころが一瞬、目を見開いて立ち止まる。今のこの状況を使って掛け合わせた、会心のなぞかけだ。
「……ふーん。やるじゃん。スピード50点、言葉遊び40点で【90点】あげましょう」
「よし、高得点! じゃあ、次はこころの番だな」
こころは伸びた自分の影をじっと見つめたあと、ふっと柔らかく微笑んで僕に向き直った。
「じゃあ行くよ。『影踏み鬼』とかけまして、ラッパーと解く!」
「えっ!?」
「どちらも『いん(陰/韻)を踏んで、きょうそう(競走/競争)する』でしょう! ここっちです!」
「……っ!?」
夕焼けの赤さのせいじゃない。僕の顔は、一瞬で茹で上がったみたいに熱くなった。言葉遊びの綺麗さに言葉が出ない。
「……す、スピード50点、言葉遊び50点で……100点満点です……」
「やったー! 私の勝ち!」
勝ち誇るこころの横で、僕は赤くなった顔を誤魔化すように下を向いた。ふと足元を見ると、夕日に照らされた僕たちの影が、ゆっくりと重なり合っていた。
「……ねえ、翔」
「な、なにさ」
「秘密なんて明かさなくてもさ。こうしてダラダラ話しながらずっと一緒に帰れれば、それでいいよね」
こころは僕の影の手の部分を、そっと自分の影の手で重ねるように踏んだ。
「……うん。僕も、それがいい」
伸びていく影に背中を押されるようにして、僕たちは少しだけ歩幅を狭め、並んで歩き出した。
決着のつかない勝負の終わりは、まだまだずっと先でいい。




