第6話︰席替え
「本日のメインイベント! 席替えの時間がやってまいりました!」
先生の宣言とともに、教室が歓声と悲鳴に包まれた。
小学校の5年生にとって、席替えは一大イベントだ。特に僕——整翔にとっては、命運を分ける大勝負でもある。
(頼む……! 隣とは言わないから、せめて近くになれ……!)
くじ引きの箱に手を入れ、祈るような気持ちで紙を引く。
番号は「12」。黒板の座席表と照らし合わせると……一番窓側の、前から3番目。
そして、隣の「11」番を引いたのは——
「あ、かけるの隣だ」
くじを持ったこころが、なんでもないことのように僕の隣の席へ歩いてきた。
引き当てたのは、まさかの「まったく同じ席」。
「なんだよ、奇跡的だな」
「まあね。かけるが寂しそうにしてたから、くじが気を利かせてくれたんじゃない?」
「そんなわけあるか!」
口ではそう言ったものの、胸の奥でほっと安堵の息を漏らしている自分がいた。
◇
その日の帰り道。すっかり涼しくなった秋の風が、僕たちの横を吹き抜けていく。
「今日の勝負はもちろん、あれよね! 『席替え』とかけまして!」
「予想通りすぎるな。……で、どう解くんだよ」
「『席替え』とかけまして、私の寝る時間と解く!」
「……その心は?」
「どちらもそこに『くじ』があるでしょう! ここっちです!」
「……っ!」
思わず足が止まりそうになった。
「くじ引き」と「9時」を掛けた、ストレートすぎるなぞかけ。
「……う、上手いじゃん。スピード50点、言葉遊び50点で……100点だよ」
「やったー! 連続満点! じゃあ次はかけるの番ね」
お題はもちろん「席替え」。
僕はランドセルのベルトをぎゅっと握りしめながら、必死に言葉を紡いだ。同じ席になれて心底ホッとした、この恥ずかしい気持ちを隠すように。
「よし、整いました! 『席替えのくじ引き』とかけまして、縄文時代と弥生時代のお皿と解きます!」
「……その心は?」
「どちらもそこに『どきどき(ドキドキ/土器土器)があるでしょう』! かけっちです!」
「ふーん、いい感じじゃん」
「さらに!」
「……!」
「『席替えのくじ引き』とかけまして、九九と解きます。」
「……その心は?」
「どちらもそこにかける(翔/×)が必要でしょう!かけっちです!」
「……!」
こころは一瞬驚いたように目を丸くしたあと、ふっと柔らかく笑った。
「……ふーん。2連続とはやるじゃない。スピード40点、言葉遊び50点、コンボポイントプラス5点で【95点】ね。また私の勝ち!」
「くっそー、5点差かぁ……。やっぱりこころには勝てないな」
苦笑いする僕に、こころは自分のランドセルから小さなノートを取り出して見せてきた。そこには、これまでのなぞかけの点数と「引き分け」「こころの勝ち」という記録がぎっしり書き込まれていた。
「いいのよ、これで」
「え?」
「ハズレくじなんて最初から入ってないんだから。席が隣でも、離れても、こうして勝負して帰るんだからさ」
夕日に照らされたこころの横顔が、なんだかいつもより大人びて見えた。
「……それにね、かける」
「なに?」
「本当のハズレは、かけると帰れなくなる日だけだよ」
ボソッと呟かれた言葉に、僕の心臓が大きく跳ねあがる。
「な、なんか言った!?」
「なにも言ってませーん! ほら、明日も席近いからすぐ話せるし、今日は遅くなっちゃったから早く帰るよ!」
前を走っていくこころの後ろ姿を追いかけながら、僕は赤くなった自分の顔を両手で隠した。
くじ引きの神様、ありがとう。僕たちの距離は、まだまだ離れそうにありません。




