第4話︰休日
「はぁ……」
土曜日の午後。自室の学習机に突っ伏したまま、僕は大きなため息をついた。
目の前には開きっぱなしの漢字ドリル。けれど、頭の中を埋め尽くしているのは「偏」や「旁」ではなく、金曜日の帰り道に去っていったこころの背中だった。
『また来週ねー!』
いつもなら「やったー! 休みだー!」と跳び上がるはずの週末なのに、なぜか心が晴れない。2日も勝負ができないなんて。2日もあいつの顔が見られないなんて。
「……僕、何考えてんだろ」
頭をブンブン振って照れくささを振り払う。そうだ、休み明けの月曜日は絶対に負けられない。
あの「誰にも言えない本当の秘密」——『本当は、こころと帰るこの時間が一番好き』なんていう恥ずかしい本音を暴かれないためにも、完璧な「なぞかけ」を準備しておかなければ。
机に向かい、ノートにペンを走らせる。
『土曜日とかけまして、野球のピッチャーと解く』 ……その心は? どちらも「きゅうそく」で大切でしょう。
「なかなかいいぞ!でも、こころ野球興味ないから伝わらないかー。・・・なら、」
『休日とかけまして、お札の貼られた扉と解く』 ……その心は? どちらも「あけない(明けない/開けない)」でしょう。
「いや、明けない休みなんかないよな。うーん……」
うんうん唸っているうちに、あっという間に日曜日の夜になっていた。
結局、納得のいくなぞかけは1つも完成しなかった。けれど、明日の準備をして布団に入ると、さっきまでのモヤモヤが嘘みたいに消えていた。胸の奥が、なんだか遠足の前夜みたいにソワソワと温かい。
◇
「おはよー、かける!」
月曜日の朝。下校時間どころか、登校風景の靴箱前で、こころが弾んだ声で駆け寄ってきた。ランドセルを揺らしながら、少しだけ息を切らせている。
「お、おはよう。急にどうしたの?」
「どうしたのもこうしたもないでしょ! 土日、ずーっと考えてたんだから!」
「え? 何を?」
「決まってるでしょ! 『休日』のお題で、なぞかけ勝負!」
朝の昇降口。まだ他の児童が行き交う靴箱の前で、こころは待ちきれないと言わんばかりに胸を張った。
「土日に休むとかけまして、かけると私の関係と解きます!」
「えっ、いきなり朝から!? ……その心は?」
「どちらも『ほっと』でしょう! ここっちです!」
「……!」
言葉を失う僕を見て、こころは一瞬だけハッとしたように頬を赤くし、慌てて付け加えた。
「あ、違うの! 関係ってのは仲良しこよしって意味なの! 変な意味じゃないから!」
「それなら沸かしたてのお茶とかでよかったんじゃ・・・」
「とにかく、考えてきたの!」
「ふ、ふーん……。でもさ、それなら僕も土日に考えたよ」
「えっ、ほんと!?」
僕は上履きに履き替えながら、少しだけ背を向けて言った。ノートに書いては消した、一番素直なやつを。
「土曜日と日曜日とかけまして、コーラと解きます」
「……その心は?」
「どちらも『あわない(会わない/泡無い)と寂しい』でしょう。……かけっちです」
静まり返る靴箱の前。 振り返ると、こころは目を丸くしたあと、真っ赤になった顔を隠すようにパッと上履きに履き替えた。
「……な、なに上手いこと言ってんのよ! こっちが照れちゃうじゃない!」
「やった! ってことは、今日の朝勝負は僕の勝ちか?」
「放課後の帰り道が本番だから! まだ引き分けだし!」
「また放課後ね!」と叫んで教室へ走っていくこころの後ろ姿を追いかけながら、僕は口元が緩むのを抑えきれなかった。
やっぱり、僕たちの決着はまだまだつきそうにない。




