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第3話︰参観日

今日は授業参観だ。教室の後ろには保護者がズラリと並んでいる。


こころのお母さんも、僕のお母さんも来ている。


「今日は国語の同音異義語の勉強よー。同じ読み方でも漢字が違うの。はい、じゃあこの問題分かる人ー?」


黒板には、「メールの□□する、仮面ライダーが□□する」と書かれている。


(こんなの誰も分からないよ……えっ!?)


僕の予想と違って、先生の問いかけにクラスの半分以上が勢いよく手を挙げた。こころも手を挙げている。


僕はといえば、後ろのお母さんからの無言の圧力をひしひしと感じ、半ばヤケクソでビシッと高く手を伸ばした。


「じゃあ、かける君」


「えっ……!?」


当てられると思っておらずパニックになった僕は、直前に隣のこころがノートに書いていた答えをそのまま読み上げた。


「……へ、へんしんです!」


「正解! よくできました。メールの『返信をする』と、仮面ライダーが『変身する』ね」


ホッと胸を撫でおろす僕の横で、こころが「やるじゃん」と小さく呟いた。ニヤニヤ顔で見つめてくるこころの顔を、僕は見られないでいた。恥ずかしさで顔が熱い。



「今日の参観日、かける大活躍だったじゃん」


帰り道、案の定こころがニヤニヤしながら並んで歩いてきた。


「いじるなよ……必死だったんだから。……で、今日の勝負はどうするの?」


「ふふん、もちろん参観日ネタよ! 参観日を見守るお母さんとかけまして、天ぷらと解く!」


「……その心は?」


「どちらも『あげたて(上げた手/揚げたて)が嬉しいでしょう』! ここっちです!」


「あはは! 上手い! って、僕の冷や汗をネタにするな!」


「ふふ、でも当たったから良かったじゃん。得点は?」


「悔しいけど……スピード50点、言葉遊び50点で100点満点あげちゃうよ」


「やったー! 満点! じゃあ、次はかけるの番ね」


お題は同じく「授業参観」。僕は通学路のガードレールを指でなぞりながら必死に考えた。


参観日、お母さん、緊張、ピリつく……なんだかマイナスの言葉しか出てこないぞ。どうしようどうしよう……あ。


「よし、整いました! 参観日とかけまして、不況と解きます!」


「……その心は?」


「どちらも『ふけいきになる(父兄気になる/不景気になる)でしょう』! かけっちです!」


「……!」


「どうだ! ちゃんと最後も言ったぞ!」


こころは一瞬目を見開いたあと、くすっと小さく笑った。


「ふーん……なかなか上手いじゃない。スピード40点、言葉遊び50点で90点ね!」


「よっしゃ高得点! ……ってことは、今日の勝負は100対90でこころの勝ち……か」


「そうね。約束通り、誰にも言っていない秘密を教えてもらうわ」


負けた。ついに僕の負けだ。ということは、「誰にも言っていない秘密」を言わなきゃいけない。冷や汗が吹き出す。いや、腹を括ろう。


「う、約束だもんな……僕の秘密、教えるよ。実は僕――」


息を吸い込んで、告白する。


「授業で当てられた時にさ、こころのノートに書いてあった答えを見て発表したんだ。僕の実力じゃないんだよ」


怒られるかな。カンニングした奴だって失望されるかな。胸の奥がモヤモヤと重たくなる。


「知ってたよ」


「え?」


「逆にバレてないと思ってたんだ。ちらっとこっち見たの、丸わかりだったよ」


「で、でも……『やるじゃん』って……」


「かっこつけさせてあげようと思って、演技したの」


「なーんだ……緊張して損した」


「ふふ、緊張したんだ?」


「そりゃそうだよ。見損なわれるかと思って……」


「そんなことで見損なったりしないって」


こころが可笑しそうに笑う。それを見て、僕の気持ちは一気に楽になった。……でも。


「そういえばさ、誰にも言っていない『本当の秘密』って、他にもないの?」


「ギクッ」


「私としては、そっちの方が気になるんだけどなー。ね、次の時にはその秘密、教えてよね」


「いやいや! 次はもう勝つつもりだし。次こそは絶対に僕が勝つからね!」


「ふふん、次も私が勝つもんねー。それじゃ、またあし――あ、明日は土曜日だった。また来週ねー!」


手を振って、そそくさと走っていくこころの背中を見送りながら、僕は立ち尽くした。


「また来週」までの2日間が急に長く感じられて、ホッとしたような、でも胸の奥がソワソワと甘酸っぱく疼くような、そんな不思議な気持ちでいっぱいになった。


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