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第2話︰シチュー

「それにしても昨日は散々だったなー。美味しいもの食べて、早く忘れちゃお。今日の給食のシチューめちゃくちゃ美味しいなぁ。おかわりもしよっと」


僕はまだ食缶に残っていたシチューを取りに行くことにした。まだたくさん残っている。これぐらいたくさんあるなら、なみなみと注いじゃえ。まだいける。もうちょい。


「ねえ、まだー?」


「うわっ!」


急に後ろから声をかけられて、手が跳ねた。振り向くと、犯人のこころが呑気に立っていた。


「なによ」


「何よじゃないよ! 急に話しかけてくるからビックリするだろ」


「ごめんごめん。そんな真剣になってるとは思わなくて。……それよりいいの? それ。」


「それって……うわあぁっ!?」


お盆の上を見たら、注ぎすぎたシチューがなみなみと溢れ出していた。大好きなシチューなのに。もったいない……! 慌てて先生が駆け寄ってくる。


「かける君、どうかした? あらあら、シチューがこぼれてるじゃない」


「大丈夫です! あと、シチューが……」


「シチューのことは放っておきなさい。さ、雑巾で拭いて」


「いえ、もったいないです!」


どうしよう、こぼした分がもったいなさすぎる。……そうだ!


「先生、いいこと思いつきました!」


「何かな?」


「吸います!」


僕はお盆に直接かぶりつき、ペロペロと舐め始めた。慌てて先生が叫ぶ。


「こらっ!吸わなくていいから早く雑巾で拭いて !」


教室中に大きな爆笑が巻き起こる。クラスのみんなに笑われまくって、僕は顔が爆発しそうなくらい真っ赤になってしまった。



そんな事件があった日の帰り道。予想通り、彼女はニヤリと笑いながら僕を振り向いた。


「今日の勝負はもちろん、あの事件からよ! 給食のシチューとかけまして!」


「おい、僕のトラウマを勝負にするなよ……」


「いいから! 給食のシチューとかけまして、いい夢と解く!」


「……その心は?」


「どちらも『さめて(冷めて/覚めて)』ほしくはないでしょう! ここっちです!」


「うーん……上手いこと言ってるな。僕は現実じゃなくて夢であってほしかったけど」


「感想はいいの! 得点は!?」


「スピード40点、言葉遊び40点で……計80点にしとくよ。ちょっと悔しいけど」


「やった! 勉強した甲斐があったわ! さあ、あなたの番よ」


「どんな勉強だよ……。んーっと」


お題はもちろん「給食のシチュー」。 僕は通学路の電柱を見つめながら必死に頭を巡らせた。シチュー、こぼす、吸います、すみません……あ!


「よし、出来た! 給食のシチューとかけまして、怒られている時の僕たちと解く!」


「へえ、いい度胸じゃない。……その心は?」


「どちらも『こぼしたあとは、すいません(吸いません/すいません)でしょう』!」


「……」


「どうだ! 今日の先生の説教を綺麗に回収したぞ!」


「……」


「判定は!?」


「そうね……スピード50点、言葉遊びは40点! 合計90点ね!」


「よし! 90点! ってことは、僕の……」


「あ、言っとくけど、今日も『かけっちです』忘れてたからマイナス10点だからね」


「言ったよ! 心の中でちゃんと『かけっちです』って言ったから!」


「心の中はノーカウントでーす!」


「なっ……ずるいぞ!」


「ずるくありませーん。なぞかけ勝負公式ルールブック第3条に書いてありまーす!」


取り留めのないことを叫び合いながら、僕たちは夕暮れの坂道を走る。


(結局、今日の勝負も引き分けかー)


「……あとさ」


少し前を走っていたこころが、ふと立ち止まった。振り返った彼女は、夕暮れの影を少し踏みつけるようにして、小さな声で言った。


「……明日さ、予備のハンカチ持ってきてあげるよ」


「え?」


「……私が急に声をかけて、シチューこぼさせちゃったでしょ。もし次の時があったら、サッと拭けるようにね」


申し訳なさそうに、でも少し照れくさそうに目線を逸らすこころ。 あんなにバカなことをして恥ずかしかったのに、その一言で胸の奥がキュッと甘酸っぱく締めつけられた。


「……べ、別にもう、こぼしたシチュー食べたりしないよ」


「ふふ、ほんとかな。この食いしん坊は」


「誰が食いしん坊だい!」


僕はぷいっと横を向いた。 きっと今の僕の耳は、教室でみんなに笑われた時よりも、ずっと真っ赤になっていただろう。


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