第2話 ハントキャスト
カウンターの上にあるモニターでは、今日もハントキャストが流れていた。
というか、いつ見てもハントキャストが流れている。
二十四時間ぶっ通し。
バウンティハンター。有名パイロット。そして巨大な鉄の塊同士が、もっと巨大な音を立てて殴り合う番組だ。
イエローゾーンでは、食堂でもバーでも整備工場のロビーでも診療所の待合室でも、開店から閉店までこれを流している店がやたらと多い。
理由は簡単。
ハントキャストは、店舗なら無料で流せる。
もう一つの選択肢は普通のニュースだ。
デトロイトで飯を食いながら、普通のニュースなんて誰も見たくない。
料理にまで暗い味が移りそうになる。
今日のハイライトは、ネバダ・コリドーで犯罪組織の装甲車列を追跡するクレストフォールだった。
朝から何度も名前が出ていたので、次に流れる映像も分かっている。
エースパイロット、コールドチェイン。
十八メートル級B.O.X.を、工場で組み立てられた機械ではなく、自分の身体からそのまま生えてきたみたいに操る男だ。
機体が崩れた高架橋をまたぎ、二台の大型貨物車の間へ身体をねじ込む。
そして先頭車両の後輪軸へ拘束ケーブルを撃ち込んだ。
車列が横回転する。
スタジオの解説者も、それに負けない勢いで騒ぎ始めた。
『見事なコントロールです、コールドチェイン!』
『ドライバーがハンドルを切る前に動きを読んでいました!』
『拘束ケーブルと民間車両との距離、わずか二メートル未満!』
その場面が三つのアングルから繰り返される。
二メートル未満。
うん。
実に安全だ。
画面いっぱいに映っている機体。
B.O.X.(ボックス)。
正式名称は《Bio-Operated Exoform Executional System》。
人間一人を中心に組み上げる、全高十八メートルの兵器プラットフォーム。
少なくとも、私にとってB.O.X.とはそういうものだった。
コールドチェインの機体よりさらに大きなものを操縦したこともあるが、ステーションにいた人間で、あれを「装甲兵器以外の何か」だと言い張る奴はいなかった。
ところが地球。
もっと正確に言えばアメリカでは、その辺りの定義がかなり柔軟になっている。
B.O.X.は兵器だ。
ついでに乗り物でもある。
産業機械でもある。
民間警備用の装備でもある。
そして、どうやら娯楽でもあるらしい。
民間業者から交換部品を買い集めれば、自宅のガレージで軍用フレームの半分くらい再建できる。
そこまで来ると、テレビに出てくる機体が何なのか、分類するほうも大変だ。
アメリカはその問題を、実にアメリカらしい方法で処理した。
まず全員で飽きるまで言い争う。
そして最後に、金と書類と顔の利く弁護士を十分に揃えられた人間から、だいたい好きにしていいことになった。
その結果、クレストフォールは全米ランキング第四位。
使用しているのは、法的には一般購入可能ということになっている政府規格の兵器プラットフォームだ。
視聴者はそんな細かいことを気にしない。
彼らにとって、クレストフォールはスポーツチームみたいなものだった。
ロゴ入りジャケット。
エナジードリンク。
プラモデル。
それから、牛乳を自然界に存在しなさそうな色へ変える子供向けシリアルまである。
一度だけ食べたことがある。
最初は結構好きだった。
途中で、私が気に入っているのはほぼ着色料と砂糖だと気づいた。
まあ、完食したけど。
食べ物を残すのはよくない。
私はモニターから目を離さないまま、カルビ定食を皿に盛った。
番組はハイライトからインタビューコーナーへ移る。
解説者たちの後ろでは、捕まった車列がまだ燃えていた。
人類が地球を飛び出してから、バウンティハンターという仕事もずいぶん変わった。
いや。
もしかすると、ほとんど変わっていないのかもしれない。
馬が装甲機械になった。
手配書がリアルタイムの契約フィードになった。
酒場がスポンサー付き配信チャンネルになった。
だいたいそれだけだ。
世界再編のあと、組織犯罪は公的な治安機関が追いつけない速度で膨れ上がった。
密輸組織は私兵を持つようになり、企業は現地の武装組織を雇い、町一つが保険会社と管轄争いの地図の向こうへ消えることすらある。
連邦政府は、犯罪者を追いかけてくれる人間をもっと必要としていた。
警察組織を拡大するとなれば、金がいる。
計画もいる。
何年か続く政治的な協力まで必要になる。
面倒くさい。
だから、もっと簡単な方法を選んだ。
フリーランサーに金を払った。
最初の頃、バウンティハンターが使っていたのは改造トラックや軽作業用のB.O.X.がほとんどだった。
ところが、誰かが高速道路での追跡劇を配信した。
動画がバズった。
スポンサーが来た。
ランキングができた。
数年もしないうちに、賞金稼ぎは娯楽になった。
チームにはファンクラブができた。
パイロットにはグッズが作られた。
視聴者は逮捕の仕方について、スポーツ選手の成績でも語るように議論する。
有名人になるバウンティハンターまで現れた。
犯罪者は今も犯罪者のままだ。
そこはあまり売りにならないので、番組もだいたい早めに流す。
兵器が本物なのも変わらない。
そして、その兵器は年々大きくなっている。
視聴者が見たいからだ。
爆発。
破壊。
二機の巨大な機体がぶつかって、撮影カメラまで揺れる瞬間。
連邦政府はついに、バウンティハントとB.O.X.を使った娯楽番組のために、特別な放送規制の免除まで作った。
どうやら暴力というものは、スポンサーと番組冒頭の注意書きがつけば少し健全になるらしい。
テレビに映るのは、金のかかった機体を持つ有名チームばかりだ。
現実のバウンティハンターは、そこまで華やかじゃない。
十八メートル級なんて使わないチームのほうが圧倒的に多い。
あのサイズは開けた土地では強い。
建物、信号機、保険会社。
その三つが関わる場所では最悪だ。
市街地用の機体は、だいたい六メートルから十メートル。
道路を通れる程度には小さい。
うっかり壁を一枚持っていける程度には大きい。
もちろん。
うっかりじゃなくても持っていける。
画面下部のニュースティッカーが流れていく。
――《ヴァナディス》先月の昇格を受け、全米セカンドティアランキング84位で初登場――
――《モーニングスター》ボルチモア契約区域から撤退――
――軍需調達再開の噂を受け《ヘカトン》株3.1%上昇――
ヘカトン。
知っている名前だった。
軍用装備に関わったことがある人間なら、大抵は知っている。
頑丈なフレーム。
高価な交換部品。
そして、それ自体を防御兵器として使えそうなくらい分厚い契約書。
今も国内で活動している最大手民間メーカーの一つだ。
アメリカは、世界標準になった防衛ドクトリンを最後まで完全には受け入れなかった。
理解しないことで儲かる企業が多すぎた。
そういう企業に親戚が勤めている政治家も多すぎた。
「上がったぞ」
料理を受け渡し台へ置くと、ディーが皿を取りに来た。
ついでにテレビへ目を向ける。
「ハントキャスト見ながら昼飯焦がさないの、じいちゃんが雇った人じゃリリアンだけだよね」
「ふっ。天賦の才ってやつだね」
「昨日、玉ねぎ生焼けだったけど」
「あれは玉ねぎが反抗期だったの。オカフォーさんが古いのと新しいの混ぜたから」
「玉ねぎでしょ。全部同じじゃん」
「だから平等に同じ時間焼いてあげた。私は平等主義者なので」
ディーが無言で私を見る。
「客はあれのほうが好きだったけど」
「でしょ? でもそれオカフォーさんに言ったら絶対怒られるんだよね」
私は重々しく頷いた。
「理解されない料理神はつらい」
まだ見ている。
やがてディーは皿を持ち上げた。
「調子乗ってないで。あと六つ来るから」
「はいはい、ただいま」
ディーがホールへ戻っていく。
私は次のカルビをひっくり返し、ジュウジュウと焼ける肉を眺めた。
……待てよ。
このカルビも、古い肉と新しい肉を混ぜてたりしないだろうな?
分からない。
下味をつけるのはオカフォーさんの担当だ。
秘伝のレシピらしく、詳しく聞いたら国家機密を盗もうとした扱いを受けそうなので聞いていない。
今のところ、誰も文句を言っていない。
なら問題ない。
たぶん。




