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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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02-1.【公平取引】── 迷宮に現れる商店部屋

《異常存在記録報告書:A-E/No.002-1》


識別仮称:《公平取引》

探索者通称:“公平ゴブリン”


分類:運用型異常

収容状況:収容不能

危険等級:第二種因果改変指定

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第一閲覧指定



■概要


本報告書は、

地下迷宮群にて断続的に確認されている異常空間

《商店部屋》および内部存在《公平取引》に関する初期調査記録を統合したものである。


対象は一般的な迷宮型魔物とは性質を異にしており、

現在までに複数の異常現象が確認されている。


詳細は調査記録を参照。


中央監査部は現在、

本件を単独個体ではなく、


“取引そのものへ干渉する異常現象”


として再定義中である。



■初期確認事例


最初の正式記録は、

下級探索者四名による帰還報告である。


探索者らは第三層探索中、

本来存在しない石室へ迷い込んだと証言。


帰還後、

中央監査部出張詰所へ救援を要請した。


記録によれば、

探索者らは著しく混乱しており、

繰り返し、


「仲間が人形になった」


と訴えていた。


当初、

監査部側は精神汚染事案を疑っていた。


理由として、

探索者は四名全員が帰還しているように見えていたためである。


しかし事情説明中、

探索者の一人が、

壁際で無言のまま立ち続ける同行者へ接近。


震える手で兜を外したことで、

異常が発覚した。


内部に存在していたのは、

人体ではなかった。


兜内部には、

精巧な木製頭部が存在していた。


確認後、

以下特徴が一致。


* 顔面構造

* 古傷位置

* 所持装備

* 防具損傷箇所


つまりそれは、

同行していた探索者本人を模した木製人形であった。


確認直後、

探索者一名が嘔吐。


別の一名は、

木製化個体の肩へ手を置いたまま、

嗚咽を溢した。


その後の聞き取りにより、

探索者らは迷宮内部で

“商店部屋”

と呼称される異常空間へ接触していたことが判明した。



■商品化事案


帰還者証言によれば、

探索者らは迷宮通路移動中、

突如として未知空間へ接続した。



「通路を曲がったら、

 急に店があった」


「迷宮なのに、

 妙に静かだった」


「机と商品、

 硬貨を並べたゴブリンがいた」



室内は、

迷宮構造と明らかに異なっていた。


継ぎ目のない灰色石壁。


光源は見当たらない。


それにも関わらず、

室内全域が均一な明るさを維持していたという。


空間中央には、

粗末な木机と帳簿、

大量の硬貨を並べた小型人型存在が座していた。


特徴は以下。


* 身長:約120cm

* 緑灰色皮膚

* ゴブリン種酷似

* 金色瞳孔


対象は来訪者確認後、

即座に以下発言を実施。


「よい取引を」


当時、

探索者一行は対象を通常魔物と誤認。


襲いかかったが対象は無傷であった。

ただ、


「よい取引を」


と発言するだけだった。


不気味に感じ部屋を出ようとしたところで、

同行者一名が、

机上商品を無断で持ち出そうとした。


直後、

対象は帳簿記載を続けたまま発言。


「未払いです」


次の瞬間、

実行者の全身が硬直。


肉体変化は即座に開始された。


確認記録によれば、

変質完了までの時間は約一分。


進行内容は以下。


* 皮膚:木材化

* 関節:球体構造化

* 眼球:ガラス状固定

* 発声機能:徐々に消失

* 魔力反応:微小


変質途中、

対象は断続的に同行者へ救援を要請。



「た、助けろ!」


「頼む、

 助けてくれ……!」



同行者らは即座に救助を試行。


しかし、

あらゆる行為が意味を成さなかった。


回復ポーションは何も起きない。


ゴブリンへの剣撃は意味をなさない。


帰還者の一人は後に、

以下証言を残している。



「全部やった」


「でも、

 何も変わらなかった」



変質完了後、

対象は帳簿へ何かを記入。


その後、

木製化した探索者を壁際へ直立配置した。


対象は商品化個体を数秒観察した後、

静かに以下発言を実施。


「不足分の補填は完了しました」


同行探索者らは、

直後に退室を試行。


しかし、

出口へ向かった探索者は、

何度走っても店内中央へ戻っていたという。



「出られなかった」


「扉まで行ったはずなのに、

 また机の前に立ってた」



対象は以後も敵対行動を示さず、

帳簿記載を継続。


断続的に以下発言を繰り返している。


「取引をしてください」


「取引は公平に」


「それも商品です」


探索者らは最終的に、

木製化した同行者を

“商品”

として購入することで退室を試行。


しかし対象は、

価格を一切提示しなかった。


帰還者証言によれば、

対象はただ一度、


「公平な対価を」


とだけ発言したという。


探索者らは協議の末、

所持していた硬貨、

予備資金、

回収済み素材など、

手持ちの財貨を机上へ提示。


対象はそれらを確認する様子もなく、

淡々と帳簿への記載を継続。


提出された硬貨類も、

価値判定を行うことなく、

無造作に机端へ積み上げていたという。


その後、

対象は木製化個体へ短時間視線を向けた後、

静かに以下発言を実施。


「取引は完了しました」


直後、

探索者らは突如として退室可能状態へ移行。


気付けば、

迷宮第三層通路へ帰還していた。


帰還後、

探索者らは著しく消耗していたものの、

生還そのものには強い安堵を示していた。


記録上、

この時点では

追加異常被害は確認されていない。



■回収後調査


回収された変質個体に対し、

中央監査部および王立治療院は以下処置を実施。


* 高位解呪

* 肉体修復

* 神聖浄化

* 錬金術的復元


しかし変化は確認されなかった。


内部構造解析では、

肉体組織は完全木材化していたにも関わらず、

腐朽停止状態を維持。


さらに異常であったのは、

生命感知術式には反応していた点である。


つまり対象は、

この状態でなお生きているということだ。



■追加調査による判明事項


追加接触記録により、

以下現象が共通確認された。


* 壁面破壊不能

* 掘削行為無効化

* 転移術式失敗

* 攻撃結果の消失


記録番号C-4では、

高位魔導士による雷撃術式が発動。


魔力消費までは正常確認された。


しかし――何も起きなかった。


術者本人は、

数秒間沈黙した後、

以下証言を残している。


「術は成立していた」


「だが、

 結果だけが消えていた」


また対象は、

複数文明圏言語へ即応。


未発話内容への反応も確認されている。


中央監査部は現在、

対象が言語ではなく、


“取引意思そのもの”


を読解している可能性を重視している。



■帳簿記録行為


対象は接客中も常時、

帳簿への記載を継続している。


しかし記録内容は現在まで解読不能。


既知文字体系との一致は確認されていない。


また対象は、

高額貨幣を雑に扱う一方、


* 欠損貨幣

* 摩耗硬貨

* 古銅貨


などを異様なまでに丁寧に確認する傾向を示す。


監視記録では、

金貨袋を床へ投棄した直後、

欠けた銅貨一枚を数分間見つめ続ける様子が確認されている。


理由は不明。



■暫定結論(起)


《公平取引》は、

単なる知性型魔物ではない。


当該存在は、


* 契約

* 対価

* 所有

* 売買

* 支払い


といった概念そのものへ干渉している可能性が高い。


特に問題視されているのは、

対象空間内部において、

“支払い完了まで結果が固定される”

という挙動である。


また、

対象自身は価格を提示せず、

来訪者側へ

“公平性の判断”

を委ねている可能性が高い。


これは通常魔術体系では説明不可能であり、

中央監査部は本件を

第二種因果改変案件として正式指定。


識別仮称《公平取引》を登録した。



■監査官付記


現在まで、

対象が価格を明示した記録は存在しない。


しかし、

私にはどうしても釈然としない点がある。


木製化した探索者一名。


その対価として支払われたのは、

金貨と素材だけだ。


もし本当に取引であるならば、

どう考えても価値が釣り合わない。


対象は査定を行わなかった。


値段も告げなかった。


それにも関わらず、

迷うことなく

「取引完了」

を宣言している。


ならば不足分はどこへ消えたのか。


あるいは――


まだ支払いが終わっていないだけなのか。


現在、

帰還者らに対する長期経過観察を継続中。


――中央監査部

第五監査官《エドラム》



※本報告は「起」段階の記録である。

次段階(承)では、

“価格の存在しない取引”

および対象が徴収している真の対価について調査を行う。

次回投稿 本日21:00

02-2.【公平取引】── 釣り合う価値

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