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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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02-2.【公平取引】── 釣り合う価値

《異常存在記録報告書:A-E/No.002-2》


識別仮称:《公平取引》

探索者通称:“公平ゴブリン”


分類:契約型異常

収容状況:監視指定

危険等級:第二種因果改変指定

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第一閲覧指定


⸻


■第二記録:価格の存在しない取引(承)


第一記録以降、

中央監査部は《公平取引》との接触事例を継続調査。


その結果、

対象が単なる異常商店ではなく、


“価値の均衡そのもの”


へ干渉している可能性が高いことが判明した。


⸻


■価格未定義商品の確認


《公平取引》内部で販売される商品には、

共通して価格表示が存在しない。


確認済み商品例:


* 回復薬

* 魔導触媒

* 武装

* 古代貨幣

* 地図

* 魔物素材


など。


しかし対象は、

一度として金額を提示していない。


来訪者は、

自身が“妥当”と判断した対価を自主的に支払う必要がある。


対象は支払い内容確認後、

帳簿へ記載。


その後、

取引成立可否が決定される。


なお、

対象は提出物に対し、

価値査定行為を行わない。


高額金貨を無造作に積み上げる一方、

欠けた銅貨一枚を長時間眺め続ける様子も確認されている。


価値基準は現在も不明。


⸻


■支払い対象の拡張性


初期段階では、

支払いは貨幣・物品に限定されると考えられていた。


しかし記録番号F-12にて、

探索者一名が金銭不足状態で以下発言を実施。


「幼少期の記憶でも持っていくか?」


直後、

対象は初めて帳簿記載を停止。


数秒間、

来訪者を注視した後、

机上へ商品を配置。


取引は成立した。


帰還後、

当該探索者には明確な人格異常が発生。


* 幼少期記憶の広範囲欠落

* 家族構成認識の曖昧化

* 故郷地名の忘失


などが確認された。


しかし対象本人は、

何を失ったのか理解できていなかった。


監査面談時、

対象は以下証言を残している。


⸻


「なんか大事なものを置いてきた気はする」


「でも……

 思い出せない」


⸻


以後の調査により、

支払い対象には以下が含まれることが判明。


* 金銭

* 魔石

* 武具

* 寿命

* 魔術

* 技能

* 記憶


など。


つまり対象は、


“価値として認識される概念そのもの”


を徴収可能である。


⸻


■均衡判定現象


最も危険視されているのは、

取引成立後に発生する

“均衡判定”

である。


中央監査部は現在、

当該現象を


「価値均衡の自動補正現象」


と定義している。


取引成立後、

商品価値と支払い価値が比較され、

均衡状態が強制形成される。


公平と判断された場合、

異常現象は発生しない。


しかし均衡が崩れていた場合、

不足または余剰が、

現実側で自動補填される。


⸻


■不足価値徴収事例


記録番号H-3。


若年探索者が、

高位治癒薬を銅貨数枚のみで購入。


本人は帰還後、

成功談として周囲へ吹聴していた。


異常発生は三日後。


* 所持装備の大半を盗難

* 所属隊商の取引失敗

* 長期依頼契約の破棄

* 保管金庫の鍵紛失


など、

断続的損失が発生。


調査の結果、

喪失総価値が

商品価値と近似していることが判明した。


本人は監査面談時、

以下発言を残している。


⸻


「結局、

 後払いだった」


「得した分を、

 別のところから払わされたんだ」


⸻


現在、

同様事例は二十七件確認済み。


多くは

“偶然”

として処理可能範囲に収まる。


しかし統計上、

発生率は明確に異常値を示している。


⸻


■第一記録帰還者追跡調査


第一記録において、

木製化した同行者を

“商品”

として買い戻した探索者三名について、

長期経過観察を実施。


帰還直後、

三名に明確な異常は確認されなかった。


しかし数ヶ月後より、

断続的な重大損失が発生。


確認事例は以下。


⸻


記録対象A


魔物討伐任務中、

左腕を重度損傷。


高位治療術式による再生失敗。


以後、

探索者引退。


⸻


記録対象B


迷宮崩落事故へ巻き込まれ、

右眼視力を完全喪失。


同行者死亡なし。


本人のみが損傷。


⸻


記録対象C


大型魔物戦闘時、

左手指三本を欠損。


神経接続修復不能。


精密武装使用不能化。


⸻


重要なのは、

いずれの事例も

“生存は可能”

な範囲に収まっている点である。


また、

欠損発生以後、

大規模損失事例は停止。


現在まで追加徴収は確認されていない。


監査面談時、

生還者三名は共通して、

以下趣旨の証言を実施。


「仲間の命が、

 あの程度の金で釣り合うとは思えない」


さらに、

記録対象Aは長時間沈黙後、

以下発言を残している。


⸻


「……やっぱ、

 足りなかったのかもな」


⸻


本人は発言後、

以後の《公平取引》関連証言を拒否。


中央監査部は現在、

対象が

“本人側の価値認識”

そのものを均衡判定へ利用している可能性を重視している。


⸻


■変質事例との関連性


中央監査部は現在、

第一記録における木製人形化現象を、


“不足価値徴収の極端事例”


である可能性が高いと判断している。


特に、

無断持ち出し実行者は、

「支払意思そのもの」を拒絶していた点が重要視された。


対象は当該実行者へ対し、

以下発言を行っている。


「未払いです」


中央監査部はこれを、

単なる警告ではなく、


“価値不足の確定宣言”


であった可能性を指摘。


木質化後も生命反応が継続していたことから、

変質個体自体が

“支払い後の商品”

として扱われている疑いが存在する。


なお対象は、

変質個体を

「護衛商品」

として店内配置していた。


このことから、

《公平取引》内部では、


* 所有

* 売買

* 人格

* 生死


の境界が、

通常倫理とは別基準で管理されている可能性が高い。


⸻


■余剰価値還元事例


逆に、

購入者側が過剰支払いを行った場合、

異常な“幸運”が発生する。


ただし現段階では、

不足価値徴収ほど致命的事例は確認されていない。


過剰支払いそのものが稀であるため、

還元上限は現在も不明。


⸻


記録番号J-2


下級探索者が、

簡易治癒薬一瓶に対し、

自身が長年収集していた古銅貨数枚を自主提示。


帰還後、

当該探索者には小規模幸運事象が連続発生。


* 紛失していた財布の発見

* 偶発的な依頼同行募集との遭遇

* 低品質と判断されていた魔石の高額買取

* 宿泊抽選の偶然当選


など。


いずれも人生を変える規模ではない。


しかし発生頻度は、

統計上明確に異常値を示した。


対象本人は面談時、

以下発言を残している。


⸻


「なんか最近、

 微妙に運がいいんだよ」


「別に人生変わるほどじゃないけどな」


⸻


中央監査部は現在、

これを


“余剰価値還元の軽度発現事例”


として記録している。


⸻


■意図評価仮説


中央監査部が現在最も警戒しているのは、

対象が“支払い意思”そのものを観測している可能性である。


以下意識傾向を持つ来訪者ほど、

発生する不幸規模が増大する傾向が確認された。


* 「騙して得をしたい」

* 「価値のない物で誤魔化したい」

* 「払わず奪いたい」

* 「相手を出し抜きたい」


逆に、


* 「不足を避けたい」

* 「公平でありたい」


という意思を持つ者では、

重大事例発生率が著しく低下。


これにより中央監査部は、


対象が単なる契約存在ではなく、


“公平性そのもの”


へ反応している可能性を重視している。


⸻


■笑顔事例


現在まで、

対象が明確な感情表現を示した事例は極めて少ない。


しかし、

“完全公平”と推定される取引成立時のみ、

短時間笑顔を見せる事例が確認されている。


共通特徴:


* 帳簿記載停止

* 硬貨確認動作消失

* 口角上昇:約1〜2秒


記録番号J-2監視員証言:


⸻


「あいつ、

 あの瞬間だけ満足そうだった」


⸻


理由は不明。


現在まで、

当該表情変化が確認された事例では、

後日の徴収・還元事象は確認されていない。


⸻


■暫定結論(承)


《公平取引》は、

単なる商人型異常存在ではない。


当該存在は、


“価値の均衡そのもの”


を成立させている。


不足は徴収され、

余剰は還元される。


そして現段階では、

“公平な支払い”

を行う限り、

致命的危険性は低いものと推定されている。


国連総合ギルドは、

当該現象を正式に


「人格を介した自動公平化現象」


と定義。


危険等級維持の上、

第二種因果改変指定継続を決定した。


⸻


■監査官付記


現在までの調査では、

公平な支払いを行った場合、

重大徴収事例は大幅に減少している。


少なくとも、

対象は“均衡”そのものを重視している可能性が高い。


だが、

調査を続けるほど、

別の疑問が浮上している。


人は本当に、

“自分にとって公平な価値”

を正確に理解できているのであろうか。


他人の価値を値踏みする者は多い。


だが、

自分自身の価値となると話は別だ。


我々は案外、

自分が何を失えば最も痛むのか、

理解していないのかもしれない。


――中央監査部

第五監査官《エドラム》


⸻


※本報告は「承」段階の記録である。

次段階(転)では、

大規模余剰価値還元事例、

および“幸福ではない幸運”に関する調査記録を統合予定。

次回投稿 本日22:00

02-3.【公平取引】── 幸福ではない幸運

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