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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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10-2.【■■捕食■】── 誰も振り向かない

《異常存在記録報告書:A-E/No.010-2》


識別仮称:《■■捕食■》


分類:不明

収容状況:調査中

危険等級:第三等級

管轄:国連総合ギルド

 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第一閲覧指定



■第二記録:誰も振り向かない



■追加発生事例


《白灯》事案発生後。


灰層回廊にて同様の失踪報告が断続的に発生。


確認された共通点は以下。


・帰還人数と登録人数の不一致

・消失者を誰も記憶していない

・関係者全員に記憶障害が発生

・登録記録のみ存在


発生件数は██日間で六件。


消失推定人数は計八名。



■問題点


本件最大の問題は、

被害者が被害を認識できない点にあった。


【監査記録】


監査官:


「同行者はどこで消えた」


冒険者:


「同行者?」


監査官:


「登録人数が違う」


冒険者:


「いや、最初から四人です」


監査官:


「記録では五人だ」


冒険者:


「……本当に?」



聞き取りは機能しなかった。


対象者達は、

失踪した人物を参照できない。


そのため、


「誰が」


「どこで」


「どうやって」


消失したのか証言できなかった。



■経路照合作業


中央監査部は調査方針を変更。


被害者証言ではなく、

探索経路の比較を実施した。


使用資料は以下。


・地図刻印石

・魔力残滓測定

・足跡追跡術式

・携帯光石移動履歴

・壁面マーキング


統合照合の結果。


全被害パーティが共通して通過していた地点を確認。



灰層回廊第三層北西区画。


崩落した礼拝室状空間。



当該地点は以後、


暫定指定名称


《空白室》


として記録された。



■空白室


広さ約十二メートル。

石造円形構造。

中央部に破損石碑を確認。

魔力濃度異常なし。

敵対存在確認なし。


調査班による初期評価。


「特徴がない」


しかし過去探索記録を再調査した結果、

複数の類似記述が発見された。


・印象に残らない部屋

・何故か記録が少ない

・通った気がする

・地図に書き忘れる


なお、

これらを書いた冒険者達は、


後日、


「そんな記録を書いた覚えはない」


と証言している。



■再現調査隊派遣


王暦██年██月██日。


中央監査部は再現調査隊を編成。


構成員七名。


目的は空白室の直接観測。


隊には以下装備を配備。


・常時録音水晶

・後方監視鏡

・人数確認札

・自動筆記魔導具

・精神干渉検知符



■帰還記録


調査隊は予定通り帰還。


しかし問題が発生した。


帰還人数:六名


登録人数:七名



■聞き取り記録


監査官:


「一名不足している」


隊長:


「誰がですか」


監査官:


「お前達は七名だ」


(沈黙)


斥候:


「……待て」


術士:


「七人……?」


隊長:


「本当に七人だったのか」


監査官:


「覚えていないのか」


隊長:


「…………」


隊長:


「分からない」



■録音記録抜粋


識別番号:AR-3


記録状態:一部劣化



【足音】


隊長:


「ここが空白室だ」


隊員A:


「思ったより普通だな」


隊員B:


「石碑以外なにも――」


(約三秒沈黙)


男性隊員:


「待て」


男性隊員:


「何だあれ」


別隊員:


「どうした」


男性隊員:


「そこにいるだろ!」


隊長:


「進むぞ」


男性隊員:


「おい!」


男性隊員:


「見えてないのか!?」


【金属衝突音】


男性隊員:


「助けてくれ!」


隊長:


「次区画へ移動する」


男性隊員:


「おい!!」


男性隊員:


「なんで誰も振り向かない!!」


【絶叫】



以後、

男性隊員の声のみが断続的に記録される。


約四十秒後。


音声は完全消失。



■初期評価


現時点で確認された事実は以下。


・空白室との高い関連性

・失踪者のみが何かを認識している可能性

・周囲は異常を認識できない

・録音記録のみ事象を保持



調査班は、

空白室を本件との関連性が極めて高い地点と判断。


封鎖候補区域へ指定した。



■監査官付記


録音記録確認後、

私は消失した隊員に関する資料の整理を行った。


当然ながら、

氏名や所属履歴を記録へ追記するためである。


だが作業中、

奇妙な違和感を覚えた。


私は確かに資料を読んでいる。


しかし数分後、

内容を説明しようとすると言葉が出てこない。


記録は残っている。


それにも関わらず、

記録した内容だけが頭の中から抜け落ちる。


疲労によるものかもしれない。


実際、

この数日まともに睡眠を取れていない。


だが、

私は念のため同資料の複製保管を指示した。


理由は説明できない。


ただ、

今回の件では


「残っているはずのもの」


を信用し過ぎるべきではない気がしている。


――中央監査部

第三監査官《カイン》



※本報告は「承」段階の記録である。


次段階(転)では、

空白室内部の追加調査および侵食事案について報告する。

次回投稿 本日21:00

10-3.【■識捕■■】── 消えていく記録


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