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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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09-4.【転嫁妖精】── 痛みの負債

《異常存在記録報告書:A-E/No.009-4》


識別仮称:《転嫁妖精》

通称:“癒し妖精”


分類:苦痛転嫁型異常

収容状況:封印管理指定

危険等級:第二等級 → 第一等級

管轄:国連総合ギルド

 ・異常存在管理局(中央監査部)

 ・医療監査局

 ・国家危機管理局

閲覧制限:第一閲覧指定



■最終記録:痛みの負債



■運用開始から七年後


転嫁妖精は、

既にエルンスト王国および国連総合ギルド運用地域における医療基盤の一部となっていた。


・戦場

・医療機関

・探索者ギルド

・貴族医療

・王国事業


その多くが、

転嫁治療を前提として運営されていた。


重傷は治る。


致命傷すら回避できる。


高位戦力は死なない。


人々は次第に、


“痛みを払わずに済む治療”


へ慣れていった。



■受容者不足


しかし、

受容者群の崩壊速度は加速していた。


長期受容者は例外なく、


・発狂

・自傷

・廃人化

・死亡


へ至った。


さらに、

一度でも受容を経験した者は、

長期的には再利用不能となることも判明。


結果として、


“受容者”


は慢性的に不足し始めた。



■代替措置


王国および運用機関は、

受容者確保を開始。


確認された事例。


・重犯罪者の延命

・奴隷制度の拡大

・債務者拘束

・流民収容

・孤児施設の秘密運用


いずれも公式には否定されている。


しかし監査部調査により、

実施が確認された。



■第二次異常発生


運用開始から七年目。


転嫁未経験者へも、

原因不明の苦痛発作が発生。


被害者は、


・裂傷の幻痛

・火傷感覚

・骨折痛

・窒息感


などを訴えた。


しかし実際の損傷は存在しなかった。



■研究結果


長期研究の結果、

研究班は最終結論へ到達した。


転嫁妖精によって移動された苦痛は、

完全には消滅していない。


受容者内部へ蓄積し続けていた。


そして一定量を超えた苦痛は、

周囲へ漏出を開始する。


つまり受容者は、


“痛みの保管庫”


へ変質していたのである。



■第六受容管理区事案


記録番号:


Ω-11



収容受容者三百二十六名が、

同時に激痛発作を発症。


直後、

周辺住民およそ四千名へ同様の苦痛が伝播。


被害者は、


「熱い」


「切れている」


「息ができない」


と叫びながら死亡した。


後の調査により、

発生した苦痛内容は、

過去七年間に転嫁処理された症例と一致している。


区域は完全封鎖。


生存者なし。



■運用停止提案


倫理委員会および中央監査部は、

転嫁治療の全面停止を提案。


しかし提案は強い反発を受けた。


理由は単純だった。


既にエルンスト王国の医療体制および、

国連総合ギルド運用地域の一部が、

転嫁治療へ依存していたためである。


停止は即ち、


“大量死”


を意味していた。



■各国反応


なお、

転嫁妖精の確認個体数は現在まで一体のみ。


保護後、

同種個体探索は継続されたが、

第二個体は発見されていない。


それ故に対象の価値は極めて高く、


封印決定後、


・エルンスト王国

・ララーシュ森国

・カルディア帝国


を含む複数国家が、

共同管理および利用継続を提案した。


一部国家は管理権譲渡を要求。


また軍部の一部からは、

戦時運用継続を求める意見も提出された。


全提案は却下された。


国家危機管理局は、


「対象の継続運用は将来的に国家規模災害を再発させる」


と結論している。


なお、

転嫁先選定基準については最終段階においても解明されていない。


ただし長期統計上、

社会的弱者への集中傾向は継続して確認された。



■最終接触記録


封印決定直前、

研究班は対象へ最後の聞き取りを実施。


記録抜粋。


研究員:


「多くの人が死んだ」


対象:


「うん」


研究員:


「君は知っていたのか」


対象:


「知ってた」


研究員:


「それでも続けた」


対象:


「だって」


対象は数秒考えた後、

静かに答えた。


「たくさん助かったよ?」


「だめだったの?」



以後、

対象は抵抗を行わなかった。



■最終結論


転嫁妖精は、

治療存在ではない。


苦痛をより耐えられる場所へ押し流し続ける、

苦痛転嫁型異常である。


その恩恵によって、

無数の命が救われた。


その代償として、

無数の苦痛が蓄積された。


問題は、


苦痛を押し流したことではない。


それを当然のものとして受け入れたことである。



■封印指定


現在、

対象は第一級封印施設へ移送。


治療利用、

研究利用、

軍事利用を全面禁止。


接触管理指定を解除。


封印管理指定へ変更。


分類を、


「治癒型異常」


から


「苦痛転嫁型異常」


へ改定する。



■監査官付記


第五監査官レオンは、

本件について最後まで反対していた。


私は彼を責めるつもりはない。


当時の判断は合理的だった。


実際に多くの命が救われた。


問題は妖精ではない。


問題は我々だ。


誰かが苦しむことで社会が成り立つなら、

人はその苦しみを見なくなる。


だから本件は異常存在の失敗事案ではない。


人間社会の失敗事案である。


――中央監査部

第一監査官《アルヴェイン》



※本報告書をもって、

異常存在《転嫁妖精》に関する統合記録を終了する。

次回投稿 本日21:00

10-1.【■■■■者】── 消えた五人目

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