09-2.【転嫁妖精】──社会を救う治療技術
《異常存在記録報告書:A-E/No.009-2》
識別仮称:《転嫁妖精》
通称:“癒し妖精”
分類:治癒型異常(暫定)
収容状況:接触管理指定
危険等級:第三等級
管轄:国連総合ギルド
・異常存在管理局(中央監査部)
・医療監査局
閲覧制限:第一閲覧指定
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■第二記録:社会を救う治療技術
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■保護指定
第一記録提出後、
中央監査部および医療監査局は、
対象を正式な研究対象として保護。
王都医療研究施設《第五治療院》への移送を決定した。
当初、
対象は保護施設への移動を拒否。
しかし研究員による説得の後、
自発的に同行している。
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■会話記録抜粋
研究員:
「もっと多くの人を助けられる」
「今よりたくさんの命が救われる」
対象:
「ほんと?」
「みんな助かる?」
研究員:
「ああ」
対象:
「じゃあ行く」
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以後、
対象による抵抗行動は確認されていない。
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■実験運用開始
移送後、
対象能力の解析が開始された。
当初実施されたのは、
重傷者に対する限定的治療試験である。
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■実験記録:Case-12
対象:
冒険者一名
症状:
・肺損傷
・肋骨粉砕
・内出血
通常治療での生存率は低い。
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処置結果
対象接触後、
患者は短時間で意識回復。
症状は大幅に改善。
一方、
待機していた軽症患者六名へ、
・軽度呼吸障害
・肋骨痛
・疲労感
が分散発生。
いずれも軽症。
生命への危険は確認されなかった。
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■法則解析
実験の結果、
対象能力には一定の傾向が確認された。
損傷は単純に移動していない。
複数人へ分散されることで、
著しく軽減されていた。
例:
・骨折一件
↓
・打撲四件
・重度裂傷一件
↓
・浅い裂傷数件
・極度疲労一件
↓
・軽度疲労多数
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■医療監査局評価
現段階において、
対象能力は
“損傷の圧縮分散”
として機能している可能性が高い。
記録上、
一名の重傷者を救うために必要な負担は、
複数名による軽傷受容で十分であった。
ただ、
打撲を受容した被験者一名は、
骨折時と同等の疼痛を訴えた。
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■実験記録:Case-19
対象:
遠征帰還兵二十名
症状:
・筋疲労
・睡眠不足
・精神疲弊
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結果
兵士達は短時間で回復。
一方、
待機対象四名へ
・疲労感
・頭痛
・倦怠感
が発生。
いずれも数日で回復した。
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■新事実
運用記録の増加に伴い、
研究班は奇妙な傾向を確認した。
対象は毎回、
転嫁先を自ら選択しているように見えたのである。
しかし選定基準は不明。
研究班は当初、
偶然による偏りと判断している。
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■広報評価
実験開始から三ヶ月後、
対象能力は軍部および医療機関から高く評価された。
報告書には以下記録が残されている。
・戦場死亡率の低下が期待できる
・高位戦力の維持が可能
・辺境医療を大幅改善可能
・大規模災害時にも有効
一部研究者は、
「医療史を変える発見」
と評価している。
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■暫定結論
対象は極めて有用な治療能力を有する。
現時点で確認されている代償は軽微。
確認された損傷はいずれも回復可能範囲内である。
そのため、
研究班は対象運用の拡大を提案した。
なお、
転嫁先選定法則については未解明。
継続研究を実施する。
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■監査官付記
私はこの報告を読んで、
対象は人類を救う存在だと思った。
実際、
救われた命は多い。
数字も結果を示している。
ただ一つだけ、
理解できない記録があった。
受容者達は、
実際に負った傷以上に痛がることがあった。
浅い裂傷。
軽度打撲。
その程度の負傷だ。
それにもかかわらず、
泣き叫ぶ者。
過呼吸を起こす者。
骨折したと思い込む者。
そうした記録が、
時折残されている。
医療班は精神的要因と判断した。
私も当時はそう考えた。
だから深く追及しなかった。
今となっては、
それが最初の兆候だったのかもしれない。
――中央監査部
第五監査官《レオン》
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※本報告は「承」段階の記録である。
次段階(転)では、
長期運用により発生した受容者異常および、
転嫁能力の本質について記録する。
次回投稿 本日21:00
09-3.【転嫁妖精】──痛みの蓄積




