09-1.【転嫁妖精】──奇跡の治療妖精
《異常存在記録報告書:A-E/No.009-1》
識別仮称:《転嫁妖精》
通称:“癒し妖精”
分類:治癒型異常(暫定)
収容状況:保護観察指定
危険等級:第三等級
管轄:国連総合ギルド
・異常存在管理局(中央監査部)
・医療監査局
閲覧制限:第一閲覧指定
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■第一記録:奇跡の治療妖精
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■概要
本報告書は、
エルンスト王国西方辺境村落《レネヴ》にて確認された未知妖精個体に関する初期調査記録である。
対象は、
既存治療魔術を大きく上回る回復能力を有する可能性が確認されている。
本記録では、
当該存在が中央監査部へ報告される契機となった重傷治療事案について記録する。
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■発生事案
西方山岳地帯にて、
冒険者パーティ《灰鐘》が魔獣討伐依頼を実施。
戦闘中、
上位魔獣の乱入により前衛一名が重傷を負った。
確認損傷は以下。
・腹部裂傷
・内臓損傷
・大量出血
・歩行不能
同行神官による診断では、
生存は極めて困難と判断されている。
パーティは依頼を中断。
負傷者を連れて《レネヴ》へ帰還した。
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■村長証言
負傷者を確認した村長は、
即座に治療院への搬送を否定。
代わりに、
以下の提案を行った。
「なら、あの子に頼みましょう」
当初、
冒険者らは意味を理解できなかった。
しかし村民達は驚かなかった。
対象の存在は、
既に村内で知られていたものと思われる。
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■対象確認
案内された先は、
村外れの森林地帯。
対象は林内の空地にて確認された。
外見的特徴は以下。
・全長約二十センチ
・人型
・半透明の羽
・淡い白色発光
外見上は一般的な妖精種と大差ない。
対象は負傷者を見ると接近。
傷口へ触れた後、
笑顔で以下の発言を行った。
「だいじょうぶ」
「もう痛くないよ」
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■治療記録
対象接触後、
負傷者の状態は急速に改善。
裂傷は閉鎖。
出血は停止。
数分後には自力歩行が可能となった。
同行神官は後に、
「高位神官でも不可能な治療だった」
と証言している。
既存治療体系との一致は確認されていない。
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■付随事象
治療完了直後、
同行者三名へ異常が発生。
確認内容は以下。
・浅い裂傷
・軽度筋断裂
・疲労感
・打撲
いずれも軽症。
治療された前衛が負っていた重傷と比較すると、
著しく軽減された状態であった。
当初、
調査班は生命力共有、
あるいは治療代償の一種と判断。
しかし負傷箇所および症状は、
治療前の重傷者が負っていた損傷内容と高い一致率を示していた。
同行者の一人は後の聞き取りにおいて、
「腹を切られた気がした」
と証言している。
しかし実際に確認された損傷は、
浅い裂傷のみであった。
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■村民聞き取り
対象は数年前より村周辺へ定着。
重傷者発生時のみ利用されていた。
ただし利用頻度は極めて少ない。
理由について、
村長は以下の証言を残している。
「助かるのは本当です」
「でも誰かが代わりに痛みます」
「だから本当に死にそうな時だけです」
さらに村内では、
・軽傷への使用禁止
・自己判断による利用禁止
が慣習化していたことが確認されている。
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■初期評価
確認された特徴は以下。
・極めて高い治療能力
・高い知性
・敵対性なし
・治療時に代償が発生
・損傷が複数人へ分散する可能性
特筆すべきは、
重傷一件に対し、
軽傷複数件という結果になっている点である。
現時点では、
対象能力は極めて有用であると判断された。
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■暫定結論
対象は、
既存医療体系を大きく変革し得る能力を有している。
治療時に他者へ負担が発生する可能性はあるものの、
確認された損傷はいずれも軽度であり、
運用可能性は高い。
中央監査部および医療監査局は、
対象を保護観察指定とした。
継続調査を実施する。
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■監査官付記
報告書を読んだ時、
私は率直に希望を感じた。
一人が死ぬはずだった。
だが助かった。
代わりに三人が軽傷を負った。
数字だけ見れば、
結果は明らかである。
我々は一人を救い、
三人に傷を分けた。
それだけだった。
少なくとも、
この時の私はそう考えていた。
だから村人達の慎重さが理解できなかった。
彼らは対象を恐れていなかった。
だが信頼もしていなかった。
今なら分かる。
彼らは治療を見ていたのではない。
代わりに痛む者を見ていたのだ。
――中央監査部
第五監査官《レオン》
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※本報告は「起」段階の記録である。
次段階(承)では、
対象保護後の運用試験および、
損傷分散法則の解析記録について報告する。
次回投稿 明日20:00
09-2.【転嫁妖精】──社会を救う治療技術




