08-4.【英雄殺し】── 偶然は誰を殺しているのか
《異常存在記録報告書:A-E/No.008-4》
識別仮称:《英雄殺し》
通称:“ただの男”
分類:概念干渉型異常
収容状況:隔離管理指定
危険等級:第一等級
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
閲覧制限:特級閲覧指定
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■最終記録:偶然は誰を殺しているのか
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■長期研究結果
《英雄殺し》収容開始から五年後。
中央監査部研究部門は、
確認済み死亡事例の再精査を実施した。
その結果。
対象が作用しているのは、
単純な高戦闘能力者ではない可能性が浮上した。
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■対象選定傾向
研究部門は、
過去の接触記録を再検証。
以下の人物群では、
対象との接触後も死亡事例が確認されていない。
* 名誉を捨てた元勇者
* 隠居した老剣聖
* 身分を隠した救国英雄
* 民衆から忘れ去られた旧聖人
特に、
第三次南方戦役英雄《灰狼のディーン》は、
引退後に対象と同一都市へ三度滞在していたことが確認されている。
しかし死亡事例は発生しなかった。
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一方。
以下の人物群では、
短時間接触のみで死亡が確認されている。
* 戦歴を持たない民衆扇動家
* 実績に乏しい新興勇者
* 宗教的偶像視を受けた聖職者
共通していたのは、
能力でも功績でもなかった。
社会的に
“英雄”
として認識されていたことである。
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■研究部門暫定仮説
研究部門は、
以下の仮説を提出した。
「対象が殺害しているのは人物ではない」
「対象は“英雄”という概念へ作用している可能性が高い」
「結果として、
英雄と認識された人物が死亡していると考えられる」
この報告以降。
監査部内部では、
対象を単なる異常存在ではなく、
“英雄概念抑制機構”
として扱うべきであるとの意見が提出された。
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■異常性変化
しかし同時期。
対象異常性の変化も確認された。
初期事例では、
対象との直接接触が
死亡発生条件であると推定されていた。
だが近年。
接触を伴わない死亡事例が複数確認されている。
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■事例記録 E-91
聖王国所属《光輪のセシリア》。
対象との接触記録なし。
会話記録なし。
視認記録なし。
しかし対象収容区域と同一都市へ滞在した二日後。
宿泊施設火災により死亡。
調査の結果、
対象とセシリアは死亡前日に同一街区へ滞在していたことが判明している。
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■研究部門追加報告
研究部門は、
当該変化について以下を指摘した。
「対象は運用によって変質した可能性がある」
「英雄死亡事例の蓄積に伴い、
作用範囲が拡大している兆候が確認される」
一部研究員は、
中央監査部による長期運用そのものが、
異常成長要因である可能性を指摘した。
当該報告は現在、
特級機密指定されている。
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■収容体制変更
非接触死亡事例確認後。
中央監査部は対象収容区域を変更。
現在。
対象は沿岸監視都市外縁区画にて管理されている。
当該区域では、
* 英雄階級立入禁止
* 高位冒険者長期滞在禁止
* 軍事戦力常駐禁止
* 来訪者身元審査
が実施されている。
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■現在の生活状況
対象には現在、
* 個人居室
* 図書室
* 庭園
* 娯楽設備
が提供されている。
これは対象の精神状態安定が、
異常安定化へ直結すると判断されたためである。
なお対象は現在も、
自身を異常存在として認識し切れていない。
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■定期面談記録
「……本当に関係あるなら」
「なんで俺なんでしょうね」
「俺、
何も出来ないんですよ」
「ただの人間なのに」
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■最終結論
《英雄殺し》は、
現時点において最も危険な対英雄異常存在である。
しかし同時に。
対象自身には、
* 殺意
* 支配欲
* 攻撃性
* 逃亡意思
のいずれも確認されていない。
問題は、
対象が何者なのかではない。
なぜ世界が、
“英雄”
だけを選択的に排除し始めたのかである。
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■監査官付記
私は長い間、
この男を調査してきた。
だが最後まで分からなかった。
彼が英雄を殺しているのか。
それとも世界が、
英雄を殺しているのか。
ただ一つ確かなことがある。
彼は英雄の死を望んでいない。
誰よりも恐れている。
もしこれが兵器なら、
これほど不向きな所有者はいないだろう。
そしてもし法則なら。
我々は九年間、
その法則へ餌を与え続けていたのかもしれない。
――中央監査部
第九監査官《ヴェルナー》
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※対象は現在も沿岸監視都市外縁区画にて隔離管理中。
英雄概念との関連性、および異常作用範囲拡大の研究は継続中である。
なお、対象周辺における非接触死亡事例は現在も断続的に報告されている。
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