08-3.【英雄殺し】── 偶然は利用できるのか
《異常存在記録報告書:A-E/No.008-3》
識別仮称:《英雄殺し》
通称:“ただの男”
分類:因果干渉型異常
収容状況:管理運用指定
危険等級:第一等級
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
閲覧制限:特級閲覧指定
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■第三記録:対英雄抑止措置
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■収容方針変更
《英雄殺し》の異常性確認後。
中央監査部は、
対象の管理方針を変更した。
従来の監視体制を終了。
対象を王都地下管理区画へ移送し、
長期保護収容を開始した。
収容開始後。
各地で断続的に発生していた
英雄級人物の異常死亡事例は大幅に減少。
過去十年間に確認されていた同種事案は、
収容後ほぼ確認されなくなった。
この結果により、
監査部内部では一つの見解が有力となる。
対象の隔離によって、
現象が抑制されている。
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■内部方針対立
しかし。
対象の扱いを巡り、
監査部内部では深刻な意見対立が発生した。
主な論点は二つ。
* 危険存在として永久隔離するべきか
* 利用可能な異常として運用するべきか
である。
特に戦略運用部門は、
対象へ強い関心を示した。
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■内部報告書抜粋
「対象の影響は英雄級人物へ偏っている」
「一般市民への被害は確認されていない」
「適切に管理できるならば、
対英雄抑止手段として利用可能である」
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当時。
各国では、
強大な力を持つ英雄による問題が相次いでいた。
* 軍事英雄による軍権掌握
* 独立国家樹立の扇動
* 宗教的英雄崇拝の暴走
通常戦力では対処困難な事例も多く、
中央監査部にとって長年の懸案事項となっていた。
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■運用実験承認
中央監査部は特級承認のもと、
対象の限定運用を決定。
初回対象には、
北部軍閥国家の英雄
《獅子王ヴェルグ》が選定された。
ヴェルグは暴力で軍を掌握し、
事実上の独裁体制を構築していた。
複数国家への侵攻準備も確認されている。
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■対象発言記録
「嫌です」
「会わせないでください」
「また死ぬ」
「俺はもう見たくない」
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対象は終始、
運用への拒絶を示した。
しかし命令には従った。
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■接触記録
対象は監査部護衛下にて、
ヴェルグ滞在都市へ移送。
閲兵式終了後。
ヴェルグ本人が対象へ接触した。
会話時間は約三分。
監視記録では、
ヴェルグ側から接近したことが確認されている。
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ヴェルグ:
「どこかで会ったか?」
対象:
「帰った方がいい」
ヴェルグ:
「何の話だ?」
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翌日。
ヴェルグ死亡。
死因は浴場での溺死。
事件性は確認されなかった。
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■運用結果
第一次運用は成功と判定された。
以後。
対象は特級承認案件に限り、
対英雄抑止措置として限定運用された。
運用対象となった英雄級人物は、
高確率で数日以内に死亡した。
死因は常に、
* 転落事故
* 病死
* 魔術事故
* 討伐失敗
など、
自然死として説明可能な範囲へ収束した。
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■運用後聴取記録
対象:
「……また、
死んだんですか」
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対象は死亡報告を聞くたび、
長時間の沈黙状態へ移行した。
なお、
対象自身に反抗・逃亡傾向は確認されていない。
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■監査部倫理委員会意見
「我々は現在、
偶然の死を兵器として利用している」
「対象が異常なのか」
「我々が異常になり始めているのか」
「既に判別できない」
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■暫定結論
《英雄殺し》は、
極めて高い対英雄抑止能力を有する。
しかし、
その作用原理は未解明であり、
完全な制御も不可能である。
また近年。
対象の作用条件は、
単なる戦闘能力ではなく、
“社会的に英雄と認識されているか”
へ依存している可能性が示唆されている。
中央監査部は、
対象運用を継続するとともに、
英雄判定条件の研究を開始した。
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■監査官付記
最初は、
偶然を疑った。
次に、
法則を疑った。
そして今。
我々はその法則を利用している。
私は監査官だ。
異常を記録し、
管理するのが仕事である。
だが今回ばかりは分からない。
管理しているのは我々なのか。
それとも、
利用されているのは我々なのか。
――中央監査部
第九監査官《ヴェルナー》
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※本報告は「転」段階の記録である。
次段階(結)では、長期研究による英雄概念仮説、および対象異常性の変化について記載される。
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08-4.【英雄殺し】── 偶然は誰を殺しているのか




