07-2.【飢腹】── 捕食衝動
《異常存在記録報告書:A-E/No.007-2》
識別仮称:《飢腹》
分類:欲求汚染型異常
収容状況:接触管理指定
危険等級:第二等級
閲覧制限:第二閲覧指定
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
協力機関:森国立異常封印院
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■第二記録:食べたい肉
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■帰還隊員経過観察
第一次調査隊帰還後、全隊員に対して経過観察が実施された。
確認された主な症状は以下。
* 肉類への執着
* 対象夢想
* 集中力低下
一方、身体的異常は限定的であった。
食事量の軽微な増加は確認されたものの、異常な飢餓症状や栄養失調などは発生していない。
しかし精神面では共通する変化が確認された。
隊員らは繰り返し、
「肉料理が食べたい」
ではなく、
「あの肉をもう一度見たい」
と発言していた。
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■共通夢事案
帰還から四日後。
第一次調査隊九名中七名より類似夢の報告が提出された。
内容は概ね一致している。
広場。
巨大な肉塊。
漂う肉の香り。
そして、
“まだ食べていない”
という感覚。
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隊員証言抜粋
「またあの肉だった」
「夢の中でも美味そうだった」
「あと少しで食べられそうだった」
「起きた時、本気で残念だった」
夢の内容は細部に差異が存在したものの、
“食べ損ねた”
という感覚のみは全員に共通していた。
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■第二調査隊派遣
対象異常性の再評価を目的として、第二調査隊が編成された。
隊員総数十六名。
第一次調査結果を受け、以下対策が実施された。
* 精神防壁術式展開
* 隊員相互監視
* 単独行動禁止
* 対象接触禁止
監査部はこの時点でなお、《飢腹》を精神干渉型異常存在として認識していた。
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■再接触記録
対象は前回観測時と同位置に存在していた。
外見上の変化は確認されない。
しかし接触開始から十分後。
複数隊員に認識異常が発生した。
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音声記録抜粋
「前より美味そうに見える」
「駄目だ、肉にしか見えない」
「少しだけなら……」
「美味そうには見えんな。
ただの太りすぎたオークだ」
「本気で言ってるのか?」
精神防壁術式は一定の効果を示した。
だが完全な遮断には至らなかった。
対象を注視した隊員ほど、
対象への関心が強まる傾向が確認されている。
ただし、
隊員一名のみが強い執着傾向を示さなかった。
当時、この差異は個人差として処理された。
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■デルム隊員事案
記録番号:E-007-D
接触開始から二十三分後。
前衛隊員デルムが隊列を離脱。
対象へ接近を開始した。
制止命令には反応しなかった。
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音声記録
「デルム、止まれ」
「聞こえているか」
「……少しだけ」
「何をする気だ」
「少しだけだ…」
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デルムは対象右腕部へ短剣を突き立てた。
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■切除反応
切断面から流出したのは血液ではなかった。
黄金色の液体であった。
油脂にも肉汁にも見える粘性流体である。
同時に周辺へ強烈な臭気が発生。
複数隊員が吐き気を訴える一方、
別の隊員は唾液分泌量増加を示した。
デルムは流出物を指先ですくい上げた。
そして口へ運んだ。
「……ああ…うまい」
直後。
対象腹部が開口した。
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■初回捕食記録
腹部裂開構造は急速に拡大。
内部より舌状器官が伸長。
デルム上半身へ巻き付いた。
救出行動実施。
失敗。
デルムは対象内部へ引き込まれた。
所要時間四秒。
回収不能。
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最終音声記録
「デルム!」
「引き戻せ!」
「離れろ!」
「――」
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記録終了。
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■暫定結論
《飢腹》は、
* 食欲を誘導する
* 対象への欲求を固定する
* 接触者を捕食する
異常存在である可能性が高い。
また長時間接触者ほど影響が増大する傾向が確認された。
本事案を受け、
対象は第二等級へ昇格。
接触管理指定へ変更された。
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■監査官付記
我々は人を食う怪物だと思っていた。
違う。
人が食べたがる怪物なのだ。
デルム隊員は最後まで抵抗しなかった。
逃げようとも。
助けを求めようとも。
ただ、
捕食される者の顔ではなかった。
――中央監査部
第七監査官《ラルク》
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※本報告は「承」段階の記録である。
次段階「転」において、《飢腹》による汚染拡大および災害指定経緯を記録する。
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