07-3.【飢腹】── 喰われに行く者たち
《異常存在記録報告書:A-E/No.007-3》
識別仮称:《飢腹》
分類:欲求汚染型異常
収容状況:封鎖管理指定
危険等級:第一等級
閲覧制限:第一閲覧指定
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
協力機関:森国立異常封印院
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■第三記録:喰らわれに行く者たち
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■汚染拡大
デルム隊員捕食事案以降、接触者の一部に異常行動が確認された。
主な症状は以下。
* 深夜徘徊
* 無断外出
* 対象夢想
* 集中力低下
症状進行は緩慢であった。
しかし全ての被験者に共通していた。
彼らは少しずつ、《飢腹》について考える時間が増えていたのである。
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聴取記録抜粋
「また夢を見た」
「あの匂いが忘れられない」
「もう一度だけ確認したい」
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■失踪事案
記録番号:E-007-M
第一次調査隊員二名が監視期間中に失踪。
居室内部から消失していた。
侵入痕なし。
争闘痕なし。
転移術式反応なし。
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監視員記録
「扉は閉まっていた」
「窓も閉まっていた」
「だが中に誰もいなかった」
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失踪直前、両名には共通症状が確認されている。
* 対象夢想
* 睡眠障害
* 無断外出傾向
また聴取記録には、
「もう一度だけ見たい」
という発言が複数回記録されていた。
周辺捜索を実施。
封鎖区域内部の調査も行われた。
しかし発見には至らなかった。
死亡も確認されていない。
生存も確認されていない。
中央監査部は、
“《飢腹》による欲求汚染が失踪事案に関与した可能性が高い”
と判断。
以後、接触者に対する監視体制が強化された。
なお、
当該隊員二名は現在も行方不明扱いとなっている。
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■例外事例調査
失踪事案発生後、
第七監査官ラルクは個人的な聞き取り調査を実施。
理由は一つ。
第二調査隊において、
唯一《飢腹》への強い執着を示さなかった隊員の存在である。
調査の結果、
当該隊員シスは元中央監査部所属監査官であることが判明。
階級は第六監査官。
現在は調査員として勤務している。
降格理由は閲覧制限対象。
詳細不明。
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聴取記録抜粋
「なぜ調査へ志願した」
「役に立つと思った」
「理由はそれだけか」
「ああ」
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耐性理由についても聴取を実施。
シスは
『心当たりはある』
と証言した。
しかし
『まだ確証がない』
として詳細説明を拒否した。
その際、
『確認が取れれば報告する』
と付け加えている。
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■生態系異常
同時期、封鎖区域周辺生態系に異常が発生。
確認事例は以下。
* 小型獣減少
* 狼型魔獣減少
* 鳥類渡来数減少
監視記録により、複数生物が自発的に対象へ接近していることが判明した。
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遠距離観測記録
狼型魔獣一頭を確認。
対象へ接近。
対象表皮を摂食。
以後、
舌で捕獲され腹の中へと捕食された。
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記録終了。
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■内部観測試行
対象内部構造解明のため、観測術式を実施。
使用術式は以下。
* 透視術式
* 魔力探査術式
* 遠隔観測術式
しかし全術式が対象内部到達後に反応を喪失。
術者らは共通して、
「途中で消えた」
と証言した。
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術者証言
「奥が見えない」
「何かに遮られている」
「いや……」
「呑み込まれた感じだ」
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■リネア事案
内部観測失敗を受け、精神投射観測が承認された。
担当術者:リネア。
接続時間六秒。
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記録音声
「中に口がある」
「まだ食っている」
「奥にも…口?」
「まだ奥にも――」
記録終了。
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接続解除後、リネアは重度錯乱状態へ移行。
以後、
「肉が待っている」
という発言を断続的に繰り返した。
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■リネア失踪
発症三日後。
リネアは拘束状態から消失。
拘束具は正常。
監禁結界も維持されていた。
破壊痕なし。
侵入痕なし。
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そして翌日。
封鎖区域監視班が対象付近で人影を確認した。
リネアであった。
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■再接触記録
リネアは対象直近に座り込んでいた。
対象表皮を剥ぎ取り、
それを食べていた。
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監視記録抜粋
「リネア!」
「聞こえるか!」
「今すぐそこを離れろ!」
反応なし。
「美味しい…もっと…もっと」
直後。
対象腹部が開口。
舌状器官が伸長。
リネアを捕縛。
そのまま内部へ引き込んだ。
回収失敗。
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■封鎖区域拡大
失踪事案および魔獣接近事案の増加を受け、
封鎖区域は段階的に拡大された。
しかし効果は限定的であった。
封鎖区域外においても、
・異常な食欲増加
・肉類への執着
・対象夢想
などの報告が増加。
さらに調査の結果、
症状発生範囲は緩やかに拡大していることが判明した。
監査部は初めて、
『影響範囲そのものが成長している』
可能性を認めた。
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■討伐決定
対象は移動しない。
しかし影響範囲は拡大を続けていた。
失踪者数。
魔獣被害。
汚染区域。
その全てが増加傾向を示している。
封鎖のみでは将来的な管理維持が困難と判断。
監査部は討伐命令を承認した。
予測演算では、
現在の拡大速度が維持された場合、
数年以内に森国北東部全域が影響下へ入る可能性が示された。
討伐命令は、
脅威除去ではなく被害拡大阻止を目的として承認された。
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■討伐失敗
高位攻撃術式による攻撃を実施。
しかし対象は全攻撃を無効化。
確認された現象は以下。
* 魔術消失
* 観測術式消失
* 魔力反応消失
いずれも対象腹部付近で発生している。
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隊員証言
「防いでいない」
「食っている」
「術式そのものをだ」
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さらに戦闘継続中、
複数隊員に欲求汚染を確認。
隊員三名が自発的に隊列を離脱。
制止命令を無視。
対象へ接近を開始した。
討伐部隊は戦闘継続不能と判断。
対象接近者の回収を優先。
作戦は中止された。
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■災害認定
討伐失敗。
汚染拡大。
生態系侵食。
失踪者増加。
これらを受け、中央監査部は《飢腹》を第一等級へ昇格。
封鎖管理指定へ変更した。
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■暫定結論
《飢腹》は動かない。
追わない。
襲わない。
しかし、
周囲が自ら近付いていく。
当該存在は、
* 欲求を改変し
* 接触者を誘引し
* 捕食を継続する
停滞型災害異常である。
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■監査官付記
対象は森を襲わない。
村も襲わない。
街も襲わない。
それでも被害は増え続けている。
我々は長らく、
怪物が人を喰うものだと思っていた。
違う。
《飢腹》は待っている。
我々の方が歩いてくるのを。
――中央監査部
第七監査官《ラルク》
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※本報告は「転」段階の記録である。
次段階「結」において、《飢腹》封鎖運用および長期管理計画について記録する。
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