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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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07-1.【飢腹】── 美味しそうな肉塊

《異常存在記録報告書:A-E/No.007-1》


識別仮称:《飢腹》


分類:飢餓汚染型異常(暫定)

収容状況:調査中

危険等級:第三等級

閲覧制限:第三閲覧指定

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

協力機関:森国立異常封印院



■概要


本報告書は、

ララーシュ森国辺境にて確認された異常存在《飢腹》に関する調査記録である。


対象は接触者へ軽度の空腹感および認識変化を誘発する異常性を有する。


本記録は、

オーク集落消失事案から正式指定に至るまでの経緯を記録したものである。



■第一記録:消えたオーク集落



■発生経緯


エルフ族国家《ララーシュ森国》北東辺境。


放棄集落指定区域《グラド村》周辺にて、

複数のオーク集落の消失が確認された。


通常、オークは高い繁殖力と群体性を有する。


集落単位での自然消滅は極めて稀である。


しかし半年ほど前より、


* 狩猟痕の減少

* 夜間咆哮の消失

* 遭遇数の急減


が継続的に発生していた。


森国警戒隊は、


* 集落間抗争

* 上位魔物による捕食

* 疫病

* 食糧難による移住


などを想定し調査を開始した。


しかし周辺からは、


戦闘痕。


大量死体。


疫病反応。


そのいずれも発見されなかった。


オークだけが消えていた。



■周辺異常報告


同時期、

《グラド村》周辺では奇妙な証言が散発的に報告されている。


主な内容は以下。


* 森へ入ると普段より空腹になる

* 携行食の消費量が増加する

* 肉類を強く食べたくなる

* 帰還後もしばらく食欲が残る


狩人証言。


「最近、干し肉を多めに持つようになった」


「森へ入る日は特に腹が減る」


「変だとは思ったが、それだけだった」


哨戒兵証言。


「携行食が妙に早くなくなる」


「帰りに肉料理を食いたくなる」


「その程度の話だった」


当時、これらは辺境任務による疲労と判断された。


後の調査により、

症状発生区域は《飢腹》確認地点を中心に緩やかに拡大していたことが判明している。



■調査隊派遣


森国警戒隊は辺境調査隊を派遣。


隊員九名により消失したオーク集落の調査を開始した。


調査隊が最初に異常を感じたのは、

集落へ到着した直後である。


静かだった。


異常なほど静かだった。


オーク集落に存在するはずの、


* 咆哮

* 争闘音

* 武器鍛造音

* 焼却臭


それらが何一つ存在しなかった。


帰還後、隊員の一名はこう証言している。


「村が死んでいた」



■集落内部状況


集落は残っていた。


粗末な木柵。


解体台。


住居。


武器。


炉。


全て残されていた。


建物内部からは、


* 噛み砕かれた骨片

* 脂肪の染み

* 半消化状態の肉片


が発見された。


一方、大量死体は存在しなかった。


代わりに各所から中央広場へ向かう引き摺り痕が確認された。


その痕跡は、全て同じ場所で終わっていた。


中央広場である。



■対象発見


対象は中央広場に存在していた。


第一発見者による記録。


「巨大な肉塊だった」


当初、それが生物であるとは認識されなかった。


対象はオークに類似した外見を有していた。


しかし肉体は異常なまでに膨張していた。


推定全長約四・八メートル。


推定体重測定不能。


自力移動能力確認されず。


腹部は地面へ広がり、


四肢は脂肪層へ埋没。


全身の皮膚は裂け、


濁った脂質が流出していた。


腐敗臭は存在しなかった。


代わりに周辺には、


焼いた肉。


煮込んだ肉。


香辛料をまぶした燻製肉。


それらを連想させる強烈な臭気が充満していた。



■音声記録抜粋


記録水晶より復元。


「何だあれ」


「オークか?」


「……美味そうな匂いがする」


「おい」


「何言ってる」


「いや……」


「腹減ったな」


この時点で調査隊全員に軽度の空腹感増加が確認されている。



■認識異常


対象接近後、一部隊員に認識異常が発生。


影響を受けた隊員は対象を、


* 丸焼き肉

* 上質な脂肉

* 炙り肉

* 燻製肉


として認識し始めた。


影響が強い隊員ほど、


「美味そうだった」


と証言している。


一方、精神干渉への抵抗傾向を示した隊員二名は異なる証言を残している。


「あれは肉じゃない」


「決して美味そうな見た目ではなかった」


「だが匂いだけは肉だった」



■腹部口腔器官の確認


異常性が決定的となったのは腹部観測時である。


対象腹部中央には巨大な裂開構造が存在していた。


当初は脂肪の裂傷と思われた。


しかし。


それは動いた。


ゆっくりと左右へ開いた。


内部には幾重もの歯列が存在した。


獣の牙。


人間の臼歯。


形状の異なる歯が無秩序に並んでいた。


その奥では肉壁が脈動していた。


そして。


舌に類似した器官が伸びた。


地面に転がっていた骨片へ絡みつく。


骨片は内部へ引き込まれた。


直後。


湿った咀嚼音が記録された。



音声記録続き。


「動いた」


「今見たか」


「腹だ」


「腹が開いた」


「骨を食ったぞ」


「下がれ!」


この時点で調査隊は緊急撤退を開始した。



■撤退時記録


撤退命令後も、隊員一名が対象から視線を外せなかった。


三度の命令でようやく後退している。


後の聴取記録。


「何だか分からない」


「でも、凄く目が離せなかった」


「このまま去るのが勿体無く感じたんだ」



■暫定結論


《飢腹》は、


* 軽度の空腹感増幅

* 食物認識改変

* 摂食欲求誘導

* 腹部口腔器官による捕食能力


を有する異常存在である可能性が高い。


なお現時点では自力移動能力は確認されていない。


危険性は対象周辺に限定されると判断された。


――この判断は後に完全な誤認であったことが判明する。



■監査官付記


第一次調査隊は全員帰還した。


そのため当初、《飢腹》は局地的異常存在として扱われた。


実際、対象は動かなかった。


追っても来なかった。


発声もしなかった。


ただ、そこにいた。


しかし帰還後の聴取記録にて、複数隊員が共通した発言を残している。


「もう一度見に行きたい」


「今でもあの匂いを思い出す」


「あれは本当に美味そうだった」


一時的な認識異常の残滓。


報告書にはそう記載されている。


だが私は気になっている。


彼らは皆、


「腹が減った」


とは言わなかった。


「あれをもう一度見たい」


と語ったのである。


――中央監査部

第七監査官《ラルク》



※本報告は「起」段階の記録である。


次段階「承」において、《飢腹》による食欲誘導および初の捕食事案について記録する。


次回投稿 本日22:00

07-2.【飢腹】── 捕食衝動

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