06-1.【帰還待ち】── お帰りなさいませ
《異常存在記録報告書:A-E/No.006-1》
識別仮称:《帰還待ち》
通称:“殺戮人形”
分類:自律戦闘型異常
収容状況:未収容
危険等級:第二等級
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
閲覧制限:第二閲覧指定
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■概要
本報告書は、
旧王国領外縁部にて確認された異常個体
《帰還待ち》に関する初期調査記録である。
対象は高度に損壊した女性型人形でありながら、
極めて高い戦闘能力および自律行動能力を保持している。
現在判明している限り、
対象は特定条件下において人間を保護対象として認識する。
しかしその保護行動は極めて歪であり、
多数の死亡事案を引き起こしている。
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■第一記録:異常個体の発見
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■発生区域
旧王国領外縁
辺境村落《エルム村》
当該地域では数ヶ月前より、
住民から奇妙な相談が提出されていた。
内容は単純である。
「森で銀色の人形を見た」
目撃報告は複数存在。
共通点は以下。
* 女性のような姿
* 全身が銀色
* 夜間に目撃される
* 村周辺の森に現れる
ただし、
当時は被害報告なし。
住民への聞き取りにおいても、
襲撃事例は確認されなかった。
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中央監査部は当初、
旧王国時代の魔導人形が活動を継続している可能性を指摘。
後日の正式調査を決定した。
同時に、
「旧王国領および周辺森林へ近付かないこと」
を住民へ通達している。
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事件が発生したのは、
調査隊派遣前日であった。
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■行方不明事案
村民の息子である少年アレン(八歳)が、
村外れの森にて行方不明となる。
捜索隊が編成されたが発見できず。
日没後、
捜索は一時中断された。
しかし翌朝。
少年は自力で帰還した。
住民証言によれば、
少年は村道を歩いていたという。
そしてその隣には、
一体の銀色の人形が立っていた。
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当初、
村人達は安堵した。
人形が少年を保護したのだと考えたためである。
実際、
少年本人も混乱した様子で、
「お姉さんが連れてきてくれた」
と証言している。
しかし住民証言によれば、
帰還途中の少年には不可解な行動が確認されている。
対象は終始、
少年の数歩後方を追従していた。
一方、
少年が村人や家族の元へ向かおうとすると、
対象はその都度進路上へ移動。
接触や攻撃は行わなかったものの、
結果的に少年の移動を制限していた。
当時は保護行動の一種と判断された。
少年の父親が駆け寄った。
次の瞬間、
首が飛んだ。
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■村落襲撃事案
対象は父親の接近直後、
高速移動を実施。
頸部を切断。
即死。
さらに母親、
村民、
警備員へ攻撃を開始。
武装・非武装は関係なかった。
共通していたのは一つだけである。
全員、
少年へ近付こうとしていた。
住民証言。
「守ってるんだと思った」
「違った」
「近付いた人から死んだ」
その後、
村民数名は村外へ脱出。
街道上にて、
調査のため派遣されていた中央監査部調査隊と遭遇した。
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■現地到着記録
調査隊到着時、
村中央広場には多数の死体が散乱していた。
確認死体数:二十七。
死因の大半は、
* 頸部切断
* 胴体切断
* 圧砕
による即死である。
広場中央には、
一体の女性型人形が存在していた。
確認特徴。
* 全高約一七〇センチ
* 顔面右半分欠損
* 左腕欠損
* 胸部装甲破断
* 全身に損壊多数
対象は直立したまま動かなかった。
調査記録によれば、
その視線は終始、村の入口方向へ向けられていた。
そしてその足元には、
少年アレンの遺体が存在していた。
死因は頸部圧壊。
検死記録では、
両膝に複数の擦過傷を確認。
転倒時に生じたものと推定されている。
また死亡時の表情には、
著しい恐怖反応が残存していた。
なぜ保護していたはずの少年が死亡したのか。
当時、
その理由は不明であった。
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■第一次接触
対象は調査隊確認直後、
高速移動を実施。
隊員一名の目前へ出現。
その後、
極めて穏やかな声で発声した。
「──お帰りなさいませ」
直後、
後方隊員が攻撃。
対象は反撃。
戦闘時間:約十三秒。
死亡。
* 前衛二名
* 後衛一名
* 魔術師二名
計五名。
対象はその後も生存者へ接近。
同じ言葉を繰り返した。
「お帰りなさいませ」
数秒後。
隊員の頸部が切断された。
別方向へ逃走した隊員も追跡され死亡。
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■生存隊員記録
最終的に残存した隊員J-3は、
対象の問いかけ
「お帰りなさいませ」
に反射的に返答した。
「……た、ただいま」
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■行動変化
返答直後、
対象は完全停止。
武装展開状態を解除。
その後、
隊員J-3の後方へ移動した。
約三分後、
負傷しながら生存していた別隊員が接近。
対象は即座に当該隊員を殺害。
以後、
隊員J-3へ近付く者を排除し続けた。
対象は攻撃しない。
しかし離れることも許さない。
常に後方数歩を維持し、
周囲を警戒していた。
その姿は、
忠実な護衛そのものだった。
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■暫定結論(起)
《帰還待ち》は単なる暴走兵器ではない。
現在確認されている特徴は以下。
* 「お帰りなさいませ」と発声する
* 「ただいま」への反応を示す
* 保護対象を設定する
* 保護対象へ異常な執着を示す
* 保護のためなら無差別殺害を実施する
対象は、
誰かを待っている。
そして、
誰かを守ろうとしている。
ただしその護衛は、
既に正常なものではない。
※本事案を受け、
危険等級は再審査中。
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■監査官付記
報告書では、
対象を旧王国由来の異常遺物として扱っている。
それで概ね間違いないだろう。
だが、
私は回収された音声を何度も聞き返した。
「お帰りなさいませ」
あの声は、
敵へ向ける声ではなかった。
帰りを待ち続けた者の声だった。
だからこそ不気味だ。
もし本当に待っているのなら。
あれはいったい、
いつから待っているのだろうか。
そして――
あとどれだけ待ち続けるのだろうか。
ただ一つ確かなのは、
待っていたはずの少年もまた、
最後はその足元で死んでいたということだ。
――中央監査部
第七監査官《ラルク》
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※本報告は「起」段階の記録である。
次段階(承)では、
対象の主人認識条件、
および旧王国時代の記録調査について報告する。
次回投稿 本日22:00
06-2.【帰還待ち】── 主人




