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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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21/29

06-1.【帰還待ち】── お帰りなさいませ

《異常存在記録報告書:A-E/No.006-1》


識別仮称:《帰還待ち》

通称:“殺戮人形”


分類:自律戦闘型異常

収容状況:未収容

危険等級:第二等級

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第二閲覧指定



■概要


本報告書は、

旧王国領外縁部にて確認された異常個体

《帰還待ち》に関する初期調査記録である。


対象は高度に損壊した女性型人形でありながら、

極めて高い戦闘能力および自律行動能力を保持している。


現在判明している限り、

対象は特定条件下において人間を保護対象として認識する。


しかしその保護行動は極めて歪であり、

多数の死亡事案を引き起こしている。



■第一記録:異常個体の発見



■発生区域


旧王国領外縁


辺境村落《エルム村》


当該地域では数ヶ月前より、

住民から奇妙な相談が提出されていた。


内容は単純である。


「森で銀色の人形を見た」


目撃報告は複数存在。


共通点は以下。


* 女性のような姿

* 全身が銀色

* 夜間に目撃される

* 村周辺の森に現れる


ただし、

当時は被害報告なし。


住民への聞き取りにおいても、

襲撃事例は確認されなかった。



中央監査部は当初、

旧王国時代の魔導人形が活動を継続している可能性を指摘。


後日の正式調査を決定した。


同時に、


「旧王国領および周辺森林へ近付かないこと」


を住民へ通達している。



事件が発生したのは、

調査隊派遣前日であった。



■行方不明事案


村民の息子である少年アレン(八歳)が、

村外れの森にて行方不明となる。


捜索隊が編成されたが発見できず。


日没後、

捜索は一時中断された。


しかし翌朝。


少年は自力で帰還した。


住民証言によれば、

少年は村道を歩いていたという。


そしてその隣には、

一体の銀色の人形が立っていた。



当初、

村人達は安堵した。


人形が少年を保護したのだと考えたためである。


実際、

少年本人も混乱した様子で、


「お姉さんが連れてきてくれた」


と証言している。


しかし住民証言によれば、

帰還途中の少年には不可解な行動が確認されている。


対象は終始、

少年の数歩後方を追従していた。


一方、

少年が村人や家族の元へ向かおうとすると、

対象はその都度進路上へ移動。


接触や攻撃は行わなかったものの、

結果的に少年の移動を制限していた。


当時は保護行動の一種と判断された。


少年の父親が駆け寄った。


次の瞬間、

首が飛んだ。



■村落襲撃事案


対象は父親の接近直後、

高速移動を実施。


頸部を切断。


即死。


さらに母親、

村民、

警備員へ攻撃を開始。


武装・非武装は関係なかった。


共通していたのは一つだけである。


全員、

少年へ近付こうとしていた。


住民証言。


「守ってるんだと思った」


「違った」


「近付いた人から死んだ」


その後、

村民数名は村外へ脱出。


街道上にて、

調査のため派遣されていた中央監査部調査隊と遭遇した。



■現地到着記録


調査隊到着時、

村中央広場には多数の死体が散乱していた。


確認死体数:二十七。


死因の大半は、


* 頸部切断

* 胴体切断

* 圧砕


による即死である。


広場中央には、

一体の女性型人形が存在していた。


確認特徴。


* 全高約一七〇センチ

* 顔面右半分欠損

* 左腕欠損

* 胸部装甲破断

* 全身に損壊多数


対象は直立したまま動かなかった。


調査記録によれば、

その視線は終始、村の入口方向へ向けられていた。


そしてその足元には、


少年アレンの遺体が存在していた。


死因は頸部圧壊。


検死記録では、

両膝に複数の擦過傷を確認。


転倒時に生じたものと推定されている。


また死亡時の表情には、

著しい恐怖反応が残存していた。


なぜ保護していたはずの少年が死亡したのか。


当時、

その理由は不明であった。



■第一次接触


対象は調査隊確認直後、

高速移動を実施。


隊員一名の目前へ出現。


その後、

極めて穏やかな声で発声した。


「──お帰りなさいませ」


直後、

後方隊員が攻撃。


対象は反撃。


戦闘時間:約十三秒。


死亡。


* 前衛二名

* 後衛一名

* 魔術師二名


計五名。


対象はその後も生存者へ接近。


同じ言葉を繰り返した。


「お帰りなさいませ」


数秒後。


隊員の頸部が切断された。


別方向へ逃走した隊員も追跡され死亡。



■生存隊員記録


最終的に残存した隊員J-3は、

対象の問いかけ


「お帰りなさいませ」


に反射的に返答した。


「……た、ただいま」



■行動変化


返答直後、

対象は完全停止。


武装展開状態を解除。


その後、

隊員J-3の後方へ移動した。


約三分後、

負傷しながら生存していた別隊員が接近。


対象は即座に当該隊員を殺害。


以後、

隊員J-3へ近付く者を排除し続けた。


対象は攻撃しない。


しかし離れることも許さない。


常に後方数歩を維持し、

周囲を警戒していた。


その姿は、

忠実な護衛そのものだった。



■暫定結論(起)


《帰還待ち》は単なる暴走兵器ではない。


現在確認されている特徴は以下。


* 「お帰りなさいませ」と発声する

* 「ただいま」への反応を示す

* 保護対象を設定する

* 保護対象へ異常な執着を示す

* 保護のためなら無差別殺害を実施する


対象は、

誰かを待っている。


そして、

誰かを守ろうとしている。


ただしその護衛は、

既に正常なものではない。


※本事案を受け、

危険等級は再審査中。



■監査官付記


報告書では、

対象を旧王国由来の異常遺物として扱っている。


それで概ね間違いないだろう。


だが、

私は回収された音声を何度も聞き返した。


「お帰りなさいませ」


あの声は、

敵へ向ける声ではなかった。


帰りを待ち続けた者の声だった。


だからこそ不気味だ。


もし本当に待っているのなら。


あれはいったい、

いつから待っているのだろうか。


そして――


あとどれだけ待ち続けるのだろうか。


ただ一つ確かなのは、

待っていたはずの少年もまた、

最後はその足元で死んでいたということだ。


――中央監査部

第七監査官《ラルク》



※本報告は「起」段階の記録である。


次段階(承)では、

対象の主人認識条件、

および旧王国時代の記録調査について報告する。

次回投稿 本日22:00

06-2.【帰還待ち】── 主人

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