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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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18/27

05-2.【飼育樹】── 依存共同体

《異常存在記録報告書:A-E/No.005-2》


識別仮称:《飼育樹ブリーディング・トレント

村民仮称:“母樹様”


分類:共同体寄生型植物異常

収容状況:監視指定

危険等級:第一等級

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第一閲覧指定



■第二記録:依存共同体(承)



■現地調査開始


中央監査部は、

果実供給源と判明した西方森林地帯へ、

合同調査隊を派遣した。


構成員は計十二名。


* 探索者

* 魔術解析士

* 医療班

* 武装護衛


を含む混成部隊である。


調査対象となった村落は計五つ。


いずれも地図上には存在していたが、

近年の往来記録は著しく減少していた。



■第一村落到達記録


調査隊は最初の対象村落《ロルネ村》へ到達。


外見上、

村は極めて平穏であった。


* 家屋維持状態:良好

* 飢餓・疫病痕跡なし

* 住民精神状態:安定


しかし調査隊は、

即座に違和感を報告している。


「静かすぎる」


家畜の鳴き声は存在した。


だが、


炊事の匂いだけが、

一切存在しなかった。



■中心存在確認


村中央広場にて、

調査隊は対象存在を初確認。


それは、

広場全域を覆う巨大樹木であった。



■外見記録


* 樹高:約二十m

* 幹部:黒褐色

* 樹皮脈動確認

* 根部広域露出

* 赤黒色果実を大量結実


外見はトレント種に近似。


しかし、

既知種に確認される移動性・攻撃性は見られなかった。


村人達は当該存在を、


「母樹様」


と呼称していた。



■食生活調査


調査中、

住民達の食事実態が確認された。


彼らは通常食を一切摂取していなかった。


確認された食事内容は、

対象樹木から採取された果実のみである。


調査隊が乾燥肉や麦粥を提供した際、

住民達は困ったように笑い、


「私達には、

 これがありますから」


と返答。


その後、

果実を極めて幸福そうな表情で摂取した。


調査員記録には、

以下の記述が残されている。


「妙に美味そうに見えた」


「甘い匂いがした気がする」


「少しだけ、

 腹が減った」



■身体検査拒否


医療班は住民達へ健康診断を提案。


しかし住民達は、

極めて穏やかな態度でこれを拒否した。


「健康ですよ」


「母樹様がおりますから」


外見上、

住民達に顕著な衰弱は存在しなかった。


むしろ、

元気すぎるように見えた。


高齢者を含め、

村人達に疲労兆候はほとんど見られなかった。


しかし異常は、

狩猟観察中に確認された。



■狩猟観察記録


観察中、村人一名が魔獣の反撃により前腕部を裂傷。


通常であれば深手と判断される損傷だった。


しかし対象は苦痛反応をほとんど示さず、作業を継続。


数秒後、裂傷内部より白色根状組織が露出。


根は傷口内部へ絡み合うように伸長し、急速な止血を実施した。


対象は露出した根を見下ろし、穏やかな口調で、


「ありがとうございます。

 母樹様」


と発言している。


傷について調査員が尋ねたが、


「凄いですよね。

 母樹様のおかげなんですよ」


とだけ嬉しそうに発言した。



■失踪者発見


都市部失踪者との一致事例を確認。


対象は、

ラドウィン医療院から失踪した男性探索者。


失踪時は重度衰弱状態であったが、

発見時には正常歩行が可能であり、

肉体状態も安定していた。


対象は当初、

調査へ協力的であった。


しかし帰還要請に対しては、

明確な拒絶反応を示した。



■対象発言記録


「ここなら飢えない」


「母樹様が食わせてくれる」


「今、すごく充実している」


特に問題視されたのは、

以下発言である。


「街の奴らにも配るべきだ」


「皆、楽になれる」



■身体検査記録


対象は説得の末、

医療班による身体検査を受諾。


検査結果は極めて異常であった。



■確認事項


* 血管周辺への根状組織定着

* 消化器内部への植物繊維侵食

* 通常食消化機能低下

* 高濃度魔力循環反応


都市部での検査結果と比較したところ、

根状組織は明確な成長傾向を示していた。


特に血管周辺では、

既に境界判別が困難なレベルで融合が進行していた。



■養分供給行動


数日間の潜伏観察により、

住民達の行動原理が判明。


彼らは自発的に、


* 狩猟

* 家畜飼育

* 魔物捕獲

* 森林開拓


を実施していた。


そして成果物の大半を、

対象樹木根部へ投入していた。



■観察記録


・獣肉埋設

・家畜血液散布

・捕獲魔物固定

・根部吸収確認


特筆すべきは、

住民達がこれを強制されていなかった点である。


彼らは対象を、


“育てている”


という認識を持っていた。



■防衛反応


調査隊が果実採取量制限を提案した際、

住民達は初めて明確な敵意を示した。


それまで友好的だった住民達が、

一斉に笑みを消した。


調査員記録によれば、

その瞬間だけ、

村人達の視線から

“感情の動き”

が消えて見えたという。


一名が、

それまでと打って変わった平坦な声で

以下発言を行っている。


「恵みを奪ってはいけません」


「母樹様を飢えさせてはいけません」


この際、

全住民に共通して、

瞳孔拡張および首筋血管の軽度痙攣が確認された。



■増殖性仮説


各村落で確認された樹木個体を比較した結果、

極めて高い構造類似性を確認。


* 樹液成分一致率:98.7%

* 根組織魔力波形一致

* 果実内部構造一致


中央監査部は、


「全個体は単一存在から株分けされた増殖体」


である可能性を提示した。


同時に、

未確認母体個体の存在も示唆されている。



■危険性再評価


《飼育樹》は、

単なる依存性植物ではない。


対象は、


* 身体侵食

* 食生活置換

* 共同体形成

* 自発的奉仕行動

* 布教行動


を段階的に実施している。


特に危険視されたのは、

依存者自身が、

“拡散者”

として機能し始めていた点である。


中央監査部は本件危険度を再評価。


本件は、

第一等級指定案件として正式移行された。



■監査官付記


村人達は、

脅されて従っているわけではなかった。


むしろ、

世話をしている時だけ、

心から安心しているように見えた。


特に不気味だったのは、

彼らが皆、


「母樹様が飢えてしまう」


と本気で心配していたことだ。


我々は当初、

人間が果実へ依存していると考えていた。


だが違うのかもしれない。


あれは、

人間に寄生しているのではない。


“育てさせている”。


もしそうなら。


あの村で最も大切に守られていたのは、

村人達ではない。


――中央監査部

第六監査官《シス》



※本報告は「承」段階記録であり、

母体個体の所在は未確認。


中央監査部は現在、

対象群に対する封鎖および焼却処理作戦を検討中である。

次回投稿 本日21:00

05-3.【飼育樹】── 焼却

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