05-2.【飼育樹】── 依存共同体
《異常存在記録報告書:A-E/No.005-2》
識別仮称:《飼育樹》
村民仮称:“母樹様”
分類:共同体寄生型植物異常
収容状況:監視指定
危険等級:第一等級
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
閲覧制限:第一閲覧指定
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■第二記録:依存共同体(承)
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■現地調査開始
中央監査部は、
果実供給源と判明した西方森林地帯へ、
合同調査隊を派遣した。
構成員は計十二名。
* 探索者
* 魔術解析士
* 医療班
* 武装護衛
を含む混成部隊である。
調査対象となった村落は計五つ。
いずれも地図上には存在していたが、
近年の往来記録は著しく減少していた。
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■第一村落到達記録
調査隊は最初の対象村落《ロルネ村》へ到達。
外見上、
村は極めて平穏であった。
* 家屋維持状態:良好
* 飢餓・疫病痕跡なし
* 住民精神状態:安定
しかし調査隊は、
即座に違和感を報告している。
「静かすぎる」
家畜の鳴き声は存在した。
だが、
炊事の匂いだけが、
一切存在しなかった。
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■中心存在確認
村中央広場にて、
調査隊は対象存在を初確認。
それは、
広場全域を覆う巨大樹木であった。
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■外見記録
* 樹高:約二十m
* 幹部:黒褐色
* 樹皮脈動確認
* 根部広域露出
* 赤黒色果実を大量結実
外見はトレント種に近似。
しかし、
既知種に確認される移動性・攻撃性は見られなかった。
村人達は当該存在を、
「母樹様」
と呼称していた。
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■食生活調査
調査中、
住民達の食事実態が確認された。
彼らは通常食を一切摂取していなかった。
確認された食事内容は、
対象樹木から採取された果実のみである。
調査隊が乾燥肉や麦粥を提供した際、
住民達は困ったように笑い、
「私達には、
これがありますから」
と返答。
その後、
果実を極めて幸福そうな表情で摂取した。
調査員記録には、
以下の記述が残されている。
「妙に美味そうに見えた」
「甘い匂いがした気がする」
「少しだけ、
腹が減った」
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■身体検査拒否
医療班は住民達へ健康診断を提案。
しかし住民達は、
極めて穏やかな態度でこれを拒否した。
「健康ですよ」
「母樹様がおりますから」
外見上、
住民達に顕著な衰弱は存在しなかった。
むしろ、
元気すぎるように見えた。
高齢者を含め、
村人達に疲労兆候はほとんど見られなかった。
しかし異常は、
狩猟観察中に確認された。
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■狩猟観察記録
観察中、村人一名が魔獣の反撃により前腕部を裂傷。
通常であれば深手と判断される損傷だった。
しかし対象は苦痛反応をほとんど示さず、作業を継続。
数秒後、裂傷内部より白色根状組織が露出。
根は傷口内部へ絡み合うように伸長し、急速な止血を実施した。
対象は露出した根を見下ろし、穏やかな口調で、
「ありがとうございます。
母樹様」
と発言している。
傷について調査員が尋ねたが、
「凄いですよね。
母樹様のおかげなんですよ」
とだけ嬉しそうに発言した。
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■失踪者発見
都市部失踪者との一致事例を確認。
対象は、
ラドウィン医療院から失踪した男性探索者。
失踪時は重度衰弱状態であったが、
発見時には正常歩行が可能であり、
肉体状態も安定していた。
対象は当初、
調査へ協力的であった。
しかし帰還要請に対しては、
明確な拒絶反応を示した。
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■対象発言記録
「ここなら飢えない」
「母樹様が食わせてくれる」
「今、すごく充実している」
特に問題視されたのは、
以下発言である。
「街の奴らにも配るべきだ」
「皆、楽になれる」
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■身体検査記録
対象は説得の末、
医療班による身体検査を受諾。
検査結果は極めて異常であった。
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■確認事項
* 血管周辺への根状組織定着
* 消化器内部への植物繊維侵食
* 通常食消化機能低下
* 高濃度魔力循環反応
都市部での検査結果と比較したところ、
根状組織は明確な成長傾向を示していた。
特に血管周辺では、
既に境界判別が困難なレベルで融合が進行していた。
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■養分供給行動
数日間の潜伏観察により、
住民達の行動原理が判明。
彼らは自発的に、
* 狩猟
* 家畜飼育
* 魔物捕獲
* 森林開拓
を実施していた。
そして成果物の大半を、
対象樹木根部へ投入していた。
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■観察記録
・獣肉埋設
・家畜血液散布
・捕獲魔物固定
・根部吸収確認
特筆すべきは、
住民達がこれを強制されていなかった点である。
彼らは対象を、
“育てている”
という認識を持っていた。
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■防衛反応
調査隊が果実採取量制限を提案した際、
住民達は初めて明確な敵意を示した。
それまで友好的だった住民達が、
一斉に笑みを消した。
調査員記録によれば、
その瞬間だけ、
村人達の視線から
“感情の動き”
が消えて見えたという。
一名が、
それまでと打って変わった平坦な声で
以下発言を行っている。
「恵みを奪ってはいけません」
「母樹様を飢えさせてはいけません」
この際、
全住民に共通して、
瞳孔拡張および首筋血管の軽度痙攣が確認された。
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■増殖性仮説
各村落で確認された樹木個体を比較した結果、
極めて高い構造類似性を確認。
* 樹液成分一致率:98.7%
* 根組織魔力波形一致
* 果実内部構造一致
中央監査部は、
「全個体は単一存在から株分けされた増殖体」
である可能性を提示した。
同時に、
未確認母体個体の存在も示唆されている。
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■危険性再評価
《飼育樹》は、
単なる依存性植物ではない。
対象は、
* 身体侵食
* 食生活置換
* 共同体形成
* 自発的奉仕行動
* 布教行動
を段階的に実施している。
特に危険視されたのは、
依存者自身が、
“拡散者”
として機能し始めていた点である。
中央監査部は本件危険度を再評価。
本件は、
第一等級指定案件として正式移行された。
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■監査官付記
村人達は、
脅されて従っているわけではなかった。
むしろ、
世話をしている時だけ、
心から安心しているように見えた。
特に不気味だったのは、
彼らが皆、
「母樹様が飢えてしまう」
と本気で心配していたことだ。
我々は当初、
人間が果実へ依存していると考えていた。
だが違うのかもしれない。
あれは、
人間に寄生しているのではない。
“育てさせている”。
もしそうなら。
あの村で最も大切に守られていたのは、
村人達ではない。
――中央監査部
第六監査官《シス》
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※本報告は「承」段階記録であり、
母体個体の所在は未確認。
中央監査部は現在、
対象群に対する封鎖および焼却処理作戦を検討中である。
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05-3.【飼育樹】── 焼却




