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異常存在記録《AER》~怪異の発見、調査、封鎖、そして失敗~  作者: SN


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05-1.【飼育樹】── 飢えない果実

《異常存在記録報告書:A-E/No.005-1》


識別仮称:《飼育樹ブリーディング・トレント


分類:生態侵食型植物異常

収容状況:調査中

危険等級:第二等級

管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)

閲覧制限:第二閲覧指定



■第一記録:異常果実流通事案(起)



■概要


本報告書は、

ドルジ帝国西方辺境都市圏にて流通が確認された

異常果実、

およびその供給源と推定される存在

《飼育樹》に関する初期調査記録である。


当初、

当該果実は、


* 高効率携行食

* 疲労回復果実

* 長期遠征用保存食


として流通していた。


しかし流通拡大後、

摂取者の間で深刻な依存症状および身体異常が発生。


通常の薬物・呪術汚染とは異なる異常性が確認された。



■発生地域


西方辺境都市ラドウィン


鉱山労働者、

探索者、

傭兵の往来が集中する辺境交易都市である。


周辺地域では慢性的食糧不足が続いており、

高栄養携行食の需要は極めて高かった。


問題の果実が最初に確認されたのは、

都市南部露店区画である。



■流通物概要


確認された果実は、

拳大程度の赤黒色果実。


表面には、

樹皮に似た筋状模様が存在していた。


果肉は異常なほど水分量に富み、

強い甘味を有する。


摂取者からは、

以下効果が報告されている。


* 少量摂取で長時間活動可能

* 強い満腹感

* 疲労軽減

* 睡眠欲求低下


特に探索者層からは高評価を獲得。



■市場証言


「これ一つで一日動ける」


「乾燥肉より軽い」


「腹が減らない」


「坑道で使えば革命だ」


流通開始から約二週間後には、

都市内複数市場へ拡散。


一部商会は、

軍用携行食としての採用も検討していた。



■異常症例発生


流通開始から約一ヶ月後。


ラドウィン中央医療院にて、

複数の異常症例が確認された。


全対象に共通していたのは、

当該果実の長期摂取歴である。



■確認症状


* 通常食への拒絶反応

* 肉類摂取時の嘔吐

* 強い渇望症状

* 睡眠障害

* 幻覚

* 手指振戦


特に果実供給停止後の症状は深刻であった。



■患者証言


「腹は減ってない」


「でも、

 食べないと駄目なんだ」


「身体の中が、

 乾いていく感じがする」


複数患者が市場倉庫への侵入を試み、

拘束後も果実要求を継続。


一部は自傷行為を伴った。



■医療院記録抜粋


「胃自体は正常だ」


「だが通常食を受け付けない」


「栄養失調状態なのに、

 本人は果実しか求めない」


「薬物中毒に近い。

 だが魔術汚染反応が存在しない」


――ラドウィン中央医療院記録より



■第一次調査


辺境領主フェルザード伯は、

都市機能への影響を懸念。


国連総合ギルド探索者部門へ正式調査を要請した。


調査班は、

果実そのものの鑑定を実施。


その結果、

重大異常が確認される。



■鑑定結果


* 既存植物種との一致なし

* 魔力反応あり

* 呪術刻印なし

* 錬金薬物反応なし


さらに長期摂取者体内から、

未知植物組織を検出。


当該組織は、

血管および消化器周辺へ定着していた。


形状は、

植物根に類似していた。


当初、

寄生植物の可能性も検討された。


しかし、

組織は宿主を急速に害していなかった。


むしろ──


宿主生命維持を補助しているように見えた。



■流通経路調査


調査班は、

果実供給経路の追跡を開始。


市場商人、

運搬人、

仲介商会への聞き取りを実施した。


その結果、

全供給源に共通点が存在した。


果実は全て、

西方森林地帯周辺村落から出荷されていたのである。


しかし、

以下異常が確認された。


* 生産者記録が存在しない

* 契約書類不備

* 村位置説明不能

* 運搬経路不一致



■運搬人証言(記録番号:R-12)


「変なんだ」


「毎回、

 違う道を通ってる気がする」


「村に木があった」


「いや、

 木っていうか……」


「皆、

 あれを世話してた」



■付記


依存症状進行患者の一部は、

医療院収容中に失踪している。


確認済み失踪者は十一名。


全員に共通して、

失踪直前、


「早く帰らないと」


「私を待ってる」


と発言していた。

誰が待っているのかという問いに、

対象は答えなかった。


追跡隊は西方森林内部にて、

対象らしき足跡を発見。


しかし痕跡は、

一定地点で消失している。



■暫定結論(起)


本件は、

通常薬物事案ではない。


確認されている異常性は、


* 強力な生理依存

* 宿主肉体侵食

* 認識異常を伴う流通経路

* 特定地域との関連性


を伴っている。


中央監査部は本件を、

未知植物型異常存在による

広域浸透事案として正式認定。


供給源村落への直接調査を決定した。



■監査官付記


果実依存者達は、

狂っていたわけではない。


むしろ、

果実を口にした瞬間だけ、

本当に安心したような顔をしていた。


特に印象に残っているのは、

坑道労働者の男の言葉だ。


「これがあれば働ける」


「腹が減らない」


「まだ動けるんだ」


……私は、

その言葉を否定できなかった。


辺境では、

働けなくなった者から死んでいく。


この果実は、

確かに彼らを支えていたのだ。


少なくとも最初は。


だからこそ、

供給源が恐ろしい。


もし本当に、

“人を養う何か”が森の奥に存在しているのなら。


それは、

人を喰う怪物より厄介かもしれない。


怪物なら逃げられる。


だが、

助けられた相手から離れるのは難しい。


――中央監査部

第六監査官《シス》



※本報告は「起」段階記録であり、

供給源村落および《飼育樹》本体は未確認である。


次段階(承)において、

辺境村落への直接調査を実施予定。

次回投稿 明日20:00

05-2.【飼育樹】── 依存共同体

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