04-1.【泥塑師】── 泥の彫刻事件
《異常存在記録報告書:A-E/No.004-1》
識別仮称:《泥塑師》
分類:変質型異常
収容状況:収容不能
危険等級:第一等級
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)
閲覧制限:第二閲覧指定
⸻
■概要
本報告書は、
《西方辺境諸侯領》ベルド辺境伯管轄下《ローデ村》にて発生した、
大規模人体変質事件の初期記録である。
事件発生後、
村内部では複数住民および家畜が、
粘土状の“彫刻”へ変質した状態で発見された。
発生原因、
変質原理、
加害存在の有無は現在も不明。
本件は通常災害を逸脱した異常案件として、
中央監査部管理下へ移行された。
⸻
■第一記録:泥の彫刻事件(起)
⸻
■事件発生
異変が確認されたのは、
降雨翌日の早朝だった。
《ローデ村》住民が、
広場中央に存在する異常物体を発見。
当初、
村民たちは誰かが彫刻を置いたものと認識していた。
しかし接近後、
それが前日まで生存していた村民であると判明。
村内部は即座に混乱状態へ移行した。
⸻
■中央広場の状況
広場中央には、
成人男性を模した等身大彫刻が配置されていた。
全身は灰色の粘土状物質へ変質。
しかし、
* 爪
* 指紋
* 歯列
* 皮膚皺
などは異常な精度で保存されていた。
⸻
対象の首部は、
通常人間の二倍近い長さへ引き延ばされていた。
にも関わらず、
皮膚構造に破綻は確認されていない。
⸻
両腕は、
喉を掻きむしる姿勢のまま捻転。
指先は胸部へ深く食い込む形で固定されていた。
顔面には、
苦悶とも歓喜とも判別不能な表情が保存されていた。
⸻
眼球のみ、
異常な湿潤状態を維持していたことが記録されている。
⸻
■追加作品群
その後、
村内部各地で同様の彫刻を多数確認。
主な発見地点:
* 民家内部
* 家畜小屋
* 納屋
* 井戸周辺
確認された作品には、
* 四肢を逆方向へ折り曲げられた人物
* 家畜と人間が融合した造形
* 人間同士を抱擁姿勢のまま癒着させた群像
などが含まれていた。
調査隊記録では、
「村全体が展示場のようだった」
と表現されている。
⸻
■ベルド冒険者ギルド調査隊到着
事件発生から三日後。
ベルド冒険者ギルド所属調査隊七名がローデ村へ到着。
到着時点で、
追加被害は確認されなかった。
また、
加害存在らしきものも未確認。
⸻
調査隊記録では、
村内部について以下の記述が残されている。
「静かすぎた」
「誰も外へ出ていなかった」
「村だけが残っていた」
⸻
■生存者状況
確認できた生存者は十一名。
多くは家屋内部へ閉じこもっていた。
共通して以下の状態を示している。
* 極度の震え
* 発声拒否
* 耳塞ぎ
* 睡眠障害
* 強い恐怖反応
⸻
理由を問われた住民は、
震えながら以下を証言している。
「耳から離れないんだ」
「あの叫びと、
何かを捏ねるぐちゃぐちゃ音が……」
また、
一部住民は以下を証言。
「トプン……って音がした」
「泥に石を落としたみたいな音だった」
⸻
■神父エルム手記(抜粋)
村教会所属神父エルムは、
事件発生後、
独自に犠牲者確認を実施。
その際の手記が回収されている。
「助けを求める声が聞こえた」
「祈ってはいけなかった」
「彼らは、まだ苦しんでいた」
「これは死者ではない」
⸻
■老薬師バド記録
老薬師バドもまた、
独自に作品群を調査。
以下の特徴を記録している。
* 内部脈動
* 微熱反応
* 未乾燥部位の存在
また、
解体を試みた作品内部から、
未変質の肉組織および骨格構造を確認。
完全な死亡状態ではない可能性が浮上した。
⸻
■作品保管記録
なお、
作品群は破壊を禁じられた状態で保管された。
回収作品群は、
ベルド冒険者ギルド地下倉庫へ一時保管。
複数作品より微弱な発声を確認。
「……たす…け」
「……いた……」
なお、
複数生存者は現在も、
断続的な液体音を幻聴している。
「トプン」
音源は未確認。
⸻
■初期術式検査結果
回収作品群に対し、
簡易魔術検査を実施。
しかし、
* 呪術反応
* 魔力残滓
* 精神干渉痕
* 降霊痕跡
はいずれも検出されなかった。
「反応が存在しない」
にも関わらず、
生物変質のみが発生している点が問題視された。
これを受け、
ベルド冒険者ギルドは通常案件処理を中断。
中央監査部へ正式報告を提出した。
⸻
■暫定結論(起)
現時点において、
変質発生原理および加害存在は未確認。
しかし、
* 人体の粘土化
* 生体反応の残留
* 異常な加工精度
* 芸術作品化傾向
* 原因不明の液体音証言
* 魔術反応の完全欠落
以上の特徴から、
本件は通常魔物・呪術災害を逸脱した異常案件と判断。
中央監査部は、
一連の事件を《泥塑事案》として登録。
後に、
識別仮称《泥塑師》が付与された。
⸻
■監査官付記
私は、
回収作品群を直接確認した。
全ての変質個体には、
明確な加工痕が存在する。
偶発的変異ではない。
人体を粘土化した後、
さらに変形処理が施されている。
確認された造形には共通性がない。
苦悶する者。
祈る者。
抱擁する者。
癒着する者。
保存されている感情も、
姿勢も、
統一されていない。
現時点では、
* 芸術作品
* 記録媒体
* 儀式工程
そのいずれであるかも判断できない。
ただ一つ確かなのは、
対象が変質そのものではなく、
“完成形”
へ強い執着を示していることだ。
我々が回収したのは犠牲者ではない。
少なくとも対象は、
そう認識していない可能性が高い。
それが最も厄介だ。
――中央監査部
第六監査官《シス》
⸻
※本報告は「起」段階の記録である。
次段階(承)では、《泥塑事案》初回実体観測記録を統合予定。
次回投稿 明日20:00
04-2.【泥塑師】── 泥の手




