03-4.【還郷村】── もう休みたい
《異常存在記録報告書:A-E/No.003-4》
識別仮称:《還郷村》
通称:“灰の帰郷” “休息村” “帰り村”
分類:非局所接続型精神災害
収容状況:収容不能/継続監視指定
危険等級:特級災害指定
管轄:国連総合ギルド 異常存在管理局(中央監査部)/聖教会共同管理
閲覧制限:特級閲覧指定
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■最終記録:観測侵食および非局所化(結)
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■封鎖作戦
《還郷村》の循環構造確認後、
中央監査部は白哭連峰全域を永久封鎖領域へ指定。
王立異常封印院主導による封鎖作戦を実施した。
投入封印機構:
* 転移封鎖陣
* 誘導遮断結界
* 高位聖印杭
さらに、
* 深淵監察騎士団
* 高位探索者ギルド
* 聖教会異端監視班
による常時監視体制を構築。
以後、
正規侵入事例は確認されていない。
少なくとも、
“白哭連峰からの侵入”
については。
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■封鎖後異常
封鎖開始から三ヶ月後、
遠距離観測班が重大異常を確認。
《還郷村》内部に、
未確認来訪者が存在していたのである。
当該人物は若年男性であり、
暖炉前で村人達と談笑していた。
しかし調査の結果、
* 結界破損なし
* 転移反応なし
* 山脈侵入痕跡なし
という結果が得られた。
つまり、
“村へ到達した痕跡そのものが存在しなかった”
のである。
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■遠隔対話記録
観測術式による遠距離接触に成功。
対象は混乱状態にあり、
以下証言を残した。
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「気付いたら、
吹雪の中を歩いていた」
「灯りが見えて……」
「やっと帰れると思った」
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後の身元照合により、
対象は西方《黒砂大迷宮》付近で失踪した新人探索者と判明。
しかし《黒砂大迷宮》は、
白哭連峰から数千キロ離れていた。
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■非局所性認定
この事例により中央監査部は、
《還郷村》が物理的位置へ依存していない可能性を正式認定。
《還郷村》は、
白哭連峰内部に存在するのではない。
“帰りたい”
と強く願った疲弊者へ接続される。
そのような仮説が提出された。
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■失踪事例拡大
封鎖後も失踪事例は継続。
特に、
* 英雄級冒険者
* 長期戦争帰還兵
* 深層迷宮踏破者
など、
著しく疲弊した者ほど到達率が高い傾向が確認された。
一部事例では、
睡眠中の失踪も発生。
残されていた痕跡は共通していた。
* 濡れた雪
* 灰色の灰
* 微かな暖炉臭
のみである。
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■情報汚染性発覚
その後、
《還郷村》関連報告書を長時間閲覧した職員達へ、
共通症状が発生。
確認症状:
* 強い疲労感
* 帰郷願望
* 睡眠欲求増大
* 業務意欲低下
特に問題視されたのは、
閲覧者達が共通して、
「少し休みたいだけなんだ」
と発言していた点である。
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■内部失踪事案
その後、
中央監査部内部職員三名が失踪。
数週間後、
遠距離観測記録内にて再確認された。
対象達は村内で穏やかに生活していた。
そのうち一名は、
監査部制服姿のまま、
笑顔でパンを焼いていた。
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■最終観測記録
第七二次遠距離観測記録において、
重大異常が発生。
観測班は当初、
“村人が一人多い”
と報告した。
しかし、
記録精査が進むにつれ、
報告内容は変化していく。
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「違う」
「多いんじゃない」
「一人、
足りない」
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直後、
記録担当観測術師が失踪。
その後の再観測において、
“47人目の村人”が、
失踪した観測術師と酷似している、
との報告が提出された。
しかし、
過去記録を遡及解析した結果、
さらに重大な事実が判明する。
その人物は、
失踪以前の観測記録にも、
最初から存在していた。
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■最終評価(結)
《還郷村》は、
単なる異常領域ではない。
当該存在は、
* 精神疲弊者への非局所接続
* 存在循環構造
* 高位認識侵食
* 情報汚染性
を併せ持つ、
複合型精神災害である。
《還郷村》は、
人を消しているわけではない。
だが、
“帰る”
という行為そのものが、
我々の理解している意味から、
既に逸脱している可能性がある。
中央監査部は本件を、
“特級災害領域”
として正式認定。
閲覧制限を特級閲覧指定へ移行した。
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■監査官付記
封鎖は失敗した。
正確には、
山を封鎖することには成功した。
だが、
《還郷村》は、
最初から山の中だけに存在していたわけではなかった。
疲れた者がいる。
帰りたい者がいる。
もう歩けないと思った者がいる。
それだけで、
あの村は現れる。
我々は長らく、
《還郷村》を
“場所”
として扱っていた。
だが違う。
あれは、
「もう休みたい」
という感情そのものへ接続している。
だから、
記録を読むだけでも危険なのだ。
もし本報告を読みながら、
「少し休みたい」
と感じたなら、
直ちに閲覧を中止せよ。
その感情が、
本当に自分自身のものか、
既に保証できない段階へ至っている。
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……最近、
この報告書を書いていると、
時折、
暖炉の匂いがする。
気のせいだと、
思いたいのだが。
――中央監査部
第五監査官《エドラム》
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※本報告書閲覧には、
第一種精神防壁処置および閲覧後認識検査を必須とする。
※閲覧後に、
* 「故郷を思い出した」
* 「少し疲れた」
* 「暖炉の夢を見た」
等の症状が発生した場合、
直ちに中央監査部精神汚染対策室へ報告せよ。
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04-1.【泥塑師】── 泥の彫刻事件




