最終話―02
……ん?
新手のナンパか、あるいはキャッチか。
そう思って声のした方を振り向いた俺は、完全に思考がフリーズした。
そこにいたのは、ぱっつんの前髪を七三に分けた女子。『見たことがある』なんてレベルじゃない。
「"良いこと"に、入りませんか?」
彼女は、あの頃と変わらない悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
坂本が「え、何? 知り合い?」と呟いたのが、遥か遠くで聞こえる。
返事をする余裕なんてあるわけがない。
だって、そうだろ!?
漫画じゃないんだから、こんな居酒屋で再会するなんて――それこそあり得なくないか!?
いや、そもそも彼女の存在自体が、漫画みたいなものだったけれど。
「伊藤さん? 返事がありませんけど……耳が外れてしまったんですか?」
「その発想、相変わらずホラーだから!」
「うふふ。伊藤さんは本当に変わりませんね」
クスクスと嬉しそうに笑う彼女。
「……山田こそ」
本当に、何も変わっていない。
半円を描いたはっきりとした目元。少し幼さの残る丸い輪郭。前髪の分け方も、身長も、声も、眩しい笑顔も。
全部、あの頃のままだ。
本当に、山田が目の前にいる。
「……俺、お邪魔な感じ?」
我に返ると、坂本が完全に置いてけぼりの寂しい目つきで俺たちを見ていた。
「あ、いえ! すみません、お邪魔をしてしまいまして。私は山田花子と申します。伊藤さんには、以前色々と……本当にお世話になった者です」
山田は丁寧にペコリと頭を下げた。
「へぇー? 伊藤にお世話ねぇ……?」
完全に酔っ払った坂本の目が、いやらしく、そしてニヤニヤと細められた。




