6話―06
「菊?」
「はい! お礼にお渡し致します」
停まったバスのステップに足を掛けて山田は言った。
……鞄に投げ込まれてたわりには綺麗だな。
「それじゃあ、伊藤さん、ありがとうございました」
そう言って彼女が手を振る。
山田が無理して笑ってるような顔をするから、何も言えなくなってしまった。
「あぁ、気をつけてな」
もっと気の効いたセリフでも言えたら良かったのに。
バスに乗り込んでしまった彼女に何て言えば良かったのだろう。
◇
「ただいま~」
「おかえり~」
うわ~。這い出てきた。
弟はずるずると炬燵から体を出し、俺に返事をしてくれた。
もうすこしマシな登場の仕方ってもんがあるだろうよ。
「あれ? それ、もらったんだ」
克己は菊に目を留めた。
「ん? あぁ、通りすがりのおばちゃんからもらった」
俺は菊をくるりと回した。
「……見え透いた嘘よくない」
う~ん。やっぱり俺は嘘をつくのは苦手なようだ。
「山田さんからもらったんでしょ? 彼女渡すか否かで迷ってたみたいだけど、結局渡したんだ~」
「ふ~ん? 迷ってたんだ」
道理で鞄に入れてた訳だ。
「そうみたいだよ。それ持って『何て言って渡せば良の?!』って一人でテンパってた」
阿呆か、あいつは……。
一人でテンパる山田……くくくっ。簡単に想像つくわ。
「山田さんの所ではさぁ~」




