5話―08
「ふわぁあ……! ここが日本三大名園の一つ、兼六園ですね……っ!!」
あいにく、兼六園は無料開放の時期ではなかったので、俺たちはきっちり入園料を払って中に入った。
地元の人間としては、普段無料で入れる場所に金を払うのはなんだか少し損した気分だ。
「そ。後楽園とか偕楽園は行ったことないから分かんないけど、きっとここが三つの中でトップだよ」
「……今、凄い事言いましたね」
「そう?」
だってばあちゃんがそう言ってたんだもん。
「山田~池に鯉がいるぞ~」
「本当ですか?! それは錦鯉ですか?!」
パァと顔を綻ばせて、小走りで俺の方へと駆け寄ってきた。
「……や、色々といるけど……」
「うわわわわ! 錦鯉ですよ! どうしましょう!」
「どうもしなくていいだろ」
むしろ、どうもしないでくれ。山田だと、食べる為に捕獲し出しても不思議じゃない。
池の縁に身を乗り出し、「綺麗ですねぇ……」とウットリ見つめる山田。
「……そんなに嬉しい?」
「はい?」
「いや、別に」
ただの錦鯉だ。水族館に行けばもっと珍しい生き物はたくさんいる。なのに、どうして彼女はあんなに眩しい、宝物でも見つめるような瞳で見ているんだろう。
――やっぱり、分かりそうにないな。
第一こいつは宇宙人だし、感覚が違って当然か。
「錦鯉は、江戸時代の突然変異から生まれたものでしたよね」
不意に、山田が水面を見つめたまま静かに言った。
「へ~、そうなの?」
どうやって生まれたかなんて考えてみた事もなかったな。
「もの凄い偶然の積み重ねで生まれた貴重な美しさが、二百年後の今でもこうして生き続けている。これって、とっても奇跡的なことだと思いませんか?」
山田は純粋な喜びと敬意を湛えた瞳で、まっすぐ俺を見た。
「……そうだな」
言われてみれば、確かにそうだ。
俺はもう一度、池の中を泳ぐ鮮やかな赤と白の魚影を見つめた。
山田の目には、この地球の景色がどんな風に映っているんだろう。きっと、退屈な日常を生きる俺とは、全く違う色をしているに違いない。
「伊藤さん、どうしたんですか? ただでさえおかしな顔が、もっと大変なことになっていますよ?」
「ん? 山田、今なんて言った?」
「いえいえ、何も。だた口が滑っただけですから」
余計たち悪いわ!
普通フォロー入れるところだろ、今のは。
「……山田は自分が可愛いからって人の事見下げてるんじゃないの?」
「え?」
「いや、だから―」
「今、可愛いって言いましたか?!」
山田がガタッと効果音がしそうな勢いで詰め寄ってきた。
「えっ? あ、いや、それは……」
しまった。口が滑ったのは俺の方だ。




