3話―11
「山田~! 山田~!」
まるで犬を捜してるみたいだなって、自分で思いつつも、他にどうしたら良いのか分からなくて名前を叫ぶ俺。
傘が俺の顔も、行き交う人の顔も隠くしてくれているから叫べてるな、確実に。
それにしても、何処にも見当たらないんだけど。
バス停から山田と一緒に歩いた道を捜しているが、全く彼女の姿は見えない。
「……山田ぁ」
なんだか虚しくなってきた。
上着も羽織らず飛び出したTシャツ一枚の体は、秋の雨に容赦なく熱を奪われている。
「はっくしょん! ……さみぃ……。いい加減、現れてくれないかな」
道路を走る車のライトが、時折俺を白く照らしては通り過ぎていく。
左手の空き地を囲う、ボロい柵の向こう。何かが、丸まっていた。
「……ん? あれ、犬じゃねえよな」
傘を放り出し、ぬかるんだ土を踏み越える。
「山田ぁ!」
「……っ、はい!」
ずぶ濡れで丸まっていた"影"が、弾かれたように顔を上げた。
そのまま彼女は、またどこで覚えたのかさっぱりな敬礼をする。
雨に打たれ、張り付いた服。震える体。
なのに、敬礼って……。
「ほんと、ばっかじゃねぇの!? 空き地が良い物件なのは、家を建てる時の話だっつの!」
「……えへへ。ですが伊藤さん。ここは、星が一番綺麗に見える特等席なんですよ……?」
震える声で、敬礼のまま視線を夜空へ向ける山田。
「見えるかボケ! 今は雨雲しかねーよ! ほら、 行くぞ!」
彼女の細い腕を強引に引っ張る。
「……はい」
その時、俯く彼女がようやく敬礼を解いた。
……山田の腕、冷たいな。
いつからここにいたんだよ。
「……」
山田の愚行に怒っていたはずなのに、急に頭が冴えていく。
「伊藤さん?」
山田のぱっつんの前髪が、雨に濡れておでこにくっついている。
「……風邪、引くぞ」
見つめ合って数秒、俺がやっと言った言葉はそれだけだった。




