第8話 山の牙 前編
「……山はな」
チュウジの声。
「静かに見えて、常に牙を研いでおる」
「気づいた時には――遅い」
「なあアキュラ」
キジオがニヤつく。
「なんだよ」
「その額の模様」
「……あ?」
「“八”って書いてあるよな」
沈黙。
「は?」
モンが吹き出す。
「言われてみりゃ“八”だな」
「ははは!ほんとだ!」
チッチも笑う。
「ちげーよ!!」
アキュラが叫ぶ。
「これはな!かっこいい模様なんだよ!」
「いやいや」
キジオが首を振る。
「完全に“八”だろ」
「縁起いいじゃねえか」
「金運上がりそうだな」
「やめろ!!」
走りながら揉み合う。
「待て!引っ張んな!!」
――少しずつ、距離が開く。
前方。
ナナたちは進んでいる。
後方。
4匹はまだ騒いでいる。
「だから違うって!」
「じゃあ“ハ”か?」
「余計ダメだろ!!」
その時。
音が消える。
「……おい」
キジオが止まる。
「なんだよ」
「静かすぎる」
風もない。
鳥も鳴かない。
「……嫌な感じだな」
モンが低く言う。
――ガサッ
来た。
影が三つ。
速い。
「なっ……!」
ハクビシン。
鋭い牙。
しなやかな動き。
「でかっ……!」
チッチが後ずさる。
一匹が飛びかかる。
アキュラが受ける。
「ぐっ……!」
重い。
想像以上。
「こいつら……!」
キジオが横から入る。
だが、二匹目が回り込む。
連携している。
「くそ……!」
モンとチッチが動く。
速い。
だが――通じない。
読まれている。
「速さで勝てねえ……!」
圧される。
完全に。
「……止まって」
ナナが言う。
全員が止まる。
「どうした」
ギンジ。
「……いない」
「誰が?」
「アキュラたち」
静寂。
「戻る」
ナナが即答する。
その時。
「……妙ですね」
シロが呟く。
「気配が乱れています」
「戦闘か」
ギンジ。
「その可能性が高いでしょう」
シロの目が細くなる。
チャチャは動かない。
「……勝手にしろ」
低く呟く。
(なんで助ける必要がある)
だが、誰も気にしない。
ナナはすでに走り出している。
現場。
「ぐっ……!」
ハリーの声。
すでに合流していた。
だが――
「硬ぇ……!」
ハリーの一撃が効かない。
ナナが動く。
速い。
だが――
当たらない。
「……読まれてる」
ハクビシンの目。
知性。
三匹のハクビシン。
トビガラ三兄弟。
だが互角ではない。
「くそ……!」
アキュラが弾かれる。
地面に転がる。
「っ……!」
立ち上がる。
笑う。
「……やべ、楽しくなってきた」
だが足が震えている。
ハリーが押される。
ナナも間に合わない。
三方向から来る。
避けきれない。
「……見誤ったな」
チュウジの声。
「ここは西州ではない」
「個の強さだけでは、足りぬ」
牙が迫る。
ナナの目が見開く。
ハリーが踏み込む。
間に合わない。
――その瞬間で止まる。




