第9話 山の牙 後編
牙が迫る。
アキュラの視界が歪む。
(やべ――)
避けきれない。
その瞬間。
――閃光。
空気が裂ける。
次の瞬間。
悲鳴。
だが――
それはアキュラではない。
「ギィィィッ!!」
ハクビシンの叫び。
片目が潰れている。
血が飛び散る。
距離を取る影。
「……まだまだ」
シロだった。
静かに着地する。
「あなた達を見ていたいので」
ゆっくりと視線を向ける。
「こんな所で死なれては困るんですよ」
穏やか。
だが、圧倒的。
ナナが息を整える。
ハリーが構え直す。
アキュラが笑う。
「……助かった」
「少しだけ、ですよ」
シロが言う。
「お手伝いします」
その言葉と同時に。
残りのハクビシンが動く。
二方向。
速い。
鋭い。
同時。
だが――
再び閃光。
今度は二つ。
シロ。
そして――
レオ。
「ちっ……速えな」
レオが笑う。
小さな体。
だが動きは鋭い。
攪乱。
シロが止める。
完全な連携。
ハクビシンが下がる。
囲まれている。
気づけば――
ギンジ。
ゲン太。
キジオ。
モン。
チッチ。
全員が揃っている。
「……逃げるぞ」
ハクビシンの一匹が低く言う。
そして。
影のように消える。
静寂。
風が戻る。
張り詰めていた空気が、ほどける。
「……ふぅー……」
アキュラがその場に座り込む。
「死ぬかと思った……」
「思ったじゃなくて、死んでたぞ今のは」
キジオが呆れる。
「うるせぇ、“八”の加護があったんだよ」
「結局それ認めてんじゃねえか」
「やめろ!!」
モンとチッチが笑う。
少しだけ、空気が緩む。
「……ふざけてる場合か」
低い声。
ゲン太。
「テメェら」
睨む。
「山をナメるな」
重い言葉。
「さっきのは“たまたま助かった”だけだ」
「一匹でも噛まれてりゃ終わりだった」
誰も反論しない。
ハリーが拳を握る。
ナナは動かない。
ただ、考えている。
(……足りない)
(私たちだけじゃ……)
初めての感覚。
“届かない”という実感。
仲間を見る。
ギンジ。
シロ。
レオ。
さっきの動き。
違う。
(……強い)
そして。
(……一緒なら)
ほんのわずか。
考えが変わる。
「……良い経験でしたね」
シロが隣に立つ。
ナナは黙っている。
「東州では、あれが普通です」
「あなた達の力は、確かに高い」
穏やかに言う。
「ですが――まだ未完成だ」
わずかに間を置く。
「だからこそ、見ていたいのですよ」
「どこまで届くのかを」
ナナは小さく息を吐く。
「……負けない」
それだけを言う。
シロは微かに笑う。
「ええ、期待しています」
「……もうすぐだ」
ゲン太が前を見る。
「ハグサ山は近い」
振り返る。
「行くぞ」
その一言で。
全員が動き出す。
山の奥へ。
伝説の場所へ。




