第10話 待つ者たち
「……戦っているのはな」
チュウジの声が静かに響く。
「何も、あやつらだけではない」
「待つ者もまた――」
「心を削りながら戦っておる」
ハグサ山の麓。
見慣れたはずの景色。
だが今日は、どこか遠い。
「すみません……突然」
とーちゃんが頭を下げる。
その横で、かーちゃんはチラシを握りしめている。
「この子たちを……探していて」
ばーちゃんはチラシを見る。
三匹の顔。
ゆっくりと息を吐く。
「……外、出たんだねぇ」
その一言で、空気が変わる。
かーちゃんの目に涙が浮かぶ。
「やっぱり……そう思う?」
ばーちゃんは頷く。
「ゾロの子だもの」
じーちゃんが外を見る。
山の方角。
「あいつも、そうだった」
「気づいたら、山に入ってた」
とーちゃんが静かに言う。
「……ゾロは、今も」
「行ってるんですか」
「ああ」
短く答える。
「帰ってこん日も多い」
「だが、帰ってくる」
かーちゃんが俯く。
「小さい頃から見てたもんね……」
「ゾロがケガして帰ってきたり」
「それでもまた行ったり……」
声が震える。
「だから……分かってたはずなのに」
「……俺たちは」
とーちゃんが言葉を選ぶ。
「分かっていたつもりで」
「分かっていなかったのかもしれません」
拳を握る。
「守られているだけの存在じゃないと」
「でも……!」
かーちゃんが顔を上げる。
「相手はイノシシとかでしょ!?」
「そんなの……あの子たちが……!」
言葉が詰まる。
「怖いねぇ」
ばーちゃんが優しく言う。
「そりゃあ怖いさ」
否定しない。
ただ、受け止める。
「でもね」
ばーちゃんが続ける。
「あの子たちは、あんたが思ってるよりずっと強いよ」
「ゾロの子だもの」
じーちゃんも小さく頷く。
「あいつの血を引いとる」
「簡単にはやられん」
かーちゃんの目から涙がこぼれる。
「……信じていいのかな」
とーちゃんはすぐには答えない。
山を見る。
遠く。
見えない場所。
「……探すこともできます」
とーちゃんが言う。
「ですが……」
言葉を切る。
「待つことも……必要なのかもしれません」
かーちゃんがゆっくりと顔を上げる。
「……待つ?」
「ああ」
「信じて」
ばーちゃんが優しく笑う。
「帰ってくるよ」
「ちゃんと」
じーちゃんも言う。
「ゾロの子だ」
「道は、分かっとる」
かーちゃんが深く息を吸う。
そして。
「……少しだけ」
「待ってみようか」
不安は消えない。
それでも。
信じるしかない。
とーちゃんが静かに頷く。
「うん」
「……それでいい」
チュウジの声。
「信じるというのはな」
「何もせぬことではない」
「見えぬ場所に託す、覚悟じゃ」
「そして――」
「その想いは、確かに届く」
風が吹く。
山の方から。
静かに。




