第11話 猫山(ねこやま)
山の匂いが、変わった。
土。
草。
そして――
何か。
ナナが足を止める。
「……ねぇ」
振り返る。
ユキがいる。
少しだけ、目が合う。
「あなた……」
言葉が出ない。
だが、確かに感じる。
懐かしさ。
違和感。
ユキも同じだった。
「……どこかで」
言いかけて、やめる。
分からない。
思い出せない。
だが――
「……変な感じね」
ナナが言う。
「ええ」
ユキが頷く。
「嫌じゃないけど」
「……落ち着かない」
沈黙。
その空気を。
「おーい!置いてくぞー!」
アキュラがぶち壊す。
「今いいとこだろ!!」
「何がだよ!!」
キジオがツッコむ。
「運命的なやつだよ!!」
「八のくせに語るな!!」
「八関係ねぇだろ!!」
モンとチッチが笑う。
ナナは小さくため息をつく。
「……行くよ」
だが。
もう一度だけ。
ユキを見る。
ユキも、同じように見ていた。
「……ここが」
ハリーが呟く。
ハグサ山。
だが。
そこにあったのは――
「……猫、多すぎだろ……」
アキュラが言う。
至る所に猫。
寝ている。
歩いている。
人に撫でられている。
「え……?」
キジオが固まる。
「なんだここ……」
観光客の声。
「かわいい〜!」
猫が鳴く。
すり寄る。
完全に――
「平和……?」
「昼は、こうなんだよ」
レオが言う。
「……は?」
「餌ももらえるしな」
モンが補足する。
「戦う必要がねぇ」
チッチも頷く。
「……じゃあ夜は?」
ハリーが聞く。
一瞬。
空気が変わる。
「……そのうち分かる」
レオが笑わずに言う。
「――来たか」
低い声。
振り向く。
そこには。
ミツ。
カン。
そして――
後ろに並ぶ猫たち。
「随分遅かったな」
カンが鼻で笑う。
「迷子か?」
「うるせぇよ」
アキュラが返す。
「八のくせに生意気だな」
「だから八関係ねぇって!!」
ミツが一歩前に出る。
「……チュウジ様がお待ちだ」
静かに言う。
「ついてこい」
「なんで分かったんだ?」
ハリーが小さく呟く。
「俺たちが来るって」
誰も答えない。
ただ――
全員、どこかで思っている。
(……おかしい)
奥へ進む。
静かな場所。
木陰。
その中に――
「……来たか」
チュウジ。
三毛の老猫。
ゆっくりと目を開く。
視線が合う。
その瞬間。
空気が変わる。
「……ほう」
小さく息を吐く。
「大きくなったな」
「……?」
アキュラが首をかしげる。
「初対面だよな?」
チュウジは答えない。
ただ、見ている。
ハリー。
ナナ。
アキュラ。
まるで――
確かめるように。
「……よく来た」
それだけを言う。
だが。
その一言に、重みがある。
「ゾロは?」
ナナが聞く。
チュウジの目がわずかに揺れる。
「……おらん」
「北だ」
「タカウジとポンズと共に遠征中じゃ」
「いつ戻るの?」
「分からん」
はっきり言う。
「今日は休め」
チュウジが言う。
「飯もある」
「寝床もある」
「……いいのかよ」
キジオが言う。
「勝手に来たのに」
チュウジはゆっくり目を閉じる。
「明日、話をする」
「それから決める」
「お前たちを」
「仲間に入れるかどうかをな」
沈黙。
アキュラが小声で言う。
「……なんか試験みたいだな」
「落ちたらどうすんだよ」
「帰るだけだろ」
キジオが返す。
「それが一番怖えよ!!」
モンとチッチが笑う。
ナナは笑っていない。
ユキを見る。
ユキもまた、同じように見ている。
(……なんだろう、この感じ)
「……始まったな」
チュウジの声。
「気づいてはおらん」
「だが――」
「確かに、流れておる」
「血が」
「力が」
「そして――運命が」
山の風が吹く。
静かに。
だが確かに。
何かが動き始めている。




