第12話 語り部の記憶
日が落ちる。
昼の喧騒は消えていた。
人の気配はない。
残るのは――
静けさと、影。
昼間、愛想を振りまいていた猫たちが。
今は違う顔をしている。
鋭い目。
戦う者の顔。
「……別世界だな」
ハリーが呟く。
「だから言ったろ」
レオが小さく笑う。
「夜は“こっち”だ」
翌朝
開けた場所。
円を描くように猫たちが集まっている。
中心にいるのは――
チュウジ。
その周りに。
ミツ、カン。
ギンジとその子分たち。
ゲン太たち。
そして、三兄弟。
「チュウジ様」
ミツが頭を下げる。
「揃いました」
チュウジはゆっくり頷く。
「ご苦労」
別の場所から声。
「ゾロ様は、まだ戻らねぇのか?」
カンが言う。
「北の遠征は長引いてるらしい」
ミツが答える。
チュウジだけが、静かに言う。
「……ゾロ殿は、必ず戻る」
その言葉に、誰も異を唱えない。
「さて」
チュウジが三兄弟を見る。
「話をしておこう」
「この山と」
「この集まりのことをな」
「昔、この山はただの山じゃった」
「獣どもが支配する、危険な場所」
「猫が長く生きられる場所ではなかった」
「そこに現れたのが――」
間。
「ゾロ殿じゃ」
「一匹で、イノシシに立ち向かった」
「鹿にも、ハクビシンにも」
「決して退かぬ」
「その背を見て」
「猫たちが集まった」
「最初は数匹」
「だが、やがて群れとなり――」
「この山を取り戻した」
「その頃のわしは」
チュウジが少し笑う。
「ただの荒くれ野良猫じゃ」
「力だけで生きておった」
「奪い、奪われ」
「……愚かな生き方じゃったな」
「そんなわしの前に現れたのが」
「ゾロ殿じゃ」
「……負けたよ」
静かに言う。
「何もかも、違った」
「力だけではなかった」
「守るために戦っておった」
「それを見て」
「わしは初めて“従う”ということを知った」
「それが――始まりじゃ」
「我ら両州キャッツは」
「タカウジ殿がまとめ上げて誕生した」
「ただの群れではない」
「猫を守るための集団」
「じゃがゾロ殿に出会って変わった」
「守るべきは猫だけでなく」
「人間も」
「この土地もだと」
「最も大きな戦いは」
「イノシシの群れじゃった」
「“ボス”と呼ばれる巨大な個体を中心に」
「何度も人里を襲った」
「罠も銃も効かん」
「だが」
「ゾロ殿は、退かなかった」
「何度倒されても立ち上がり」
「ついに――討ち取った」
静寂。
誰も言葉を発しない。
「戦いには技がいる」
「それが――ニャン法」
「爪、牙、体術」
「すべてを使った戦闘技術じゃ」
「そして」
「もう一つ」
「ニャン術」
少しだけ顔をしかめる。
「人間に好かれるための技じゃ」
「……これは苦手でな」
周囲に小さな笑いが起きる。
「野良には不要じゃったからの」
空気が少し緩む。
「だが」
チュウジの声が低くなる。
「それだけでは説明できぬ力がある」
ナナが反応する。
ハリーも。
アキュラも。
「感じておるはずじゃ」
静かに、確実に言う。
「常識を超えた動き」
「あり得ぬ勘」
「偶然とは言えぬ結果」
空気が張り詰める。
「それはな――」
チュウジが目を開く。
「力じゃ」
「選ばれた者だけが持つ」
間。
「特別な力」
そして。
はっきりと。
「それは――」
「ニャオスだ」
静寂。
誰も動かない。
ただ。
確実に。
何かが変わった。




