第7話 山へ向かう者たち
「……東州カガシア区」
チュウジの声が流れる。
「そこは“生きる”という意味が変わる場所じゃ」
「守られることはない」
「奪われるか、抗うか」
「ただそれだけ」
走る。
木々の間。
湿った土。
見慣れない匂い。
「……なんか、嫌な感じだな」
アキュラが呟く。
「静かすぎる」
ハリーも同じように周囲を見る。
「西州とは違う……」
ナナは何も言わない。
ただ、前を見ている。
「それでいい」
ギンジが言う。
「ここはそういう場所だ」
「この辺りからはな」
ゲン太が前を走りながら言う。
「縄張りの概念が薄い」
「は?」
アキュラが顔をしかめる。
「どういうことだよ」
「守れる広さじゃねえんだよ」
「強い奴が“生き残る”」
「それだけだ」
ハリーが少し黙る。
その少し後ろ。
ギンジの子分たちが走る。
「なあ……モン」
黒猫が小さく言う。
「なんだ?、チッチ」
視線の先。
ハリーたち。
「なんで親方、あんなガキどもの下についたんだ?」
「シロさんと俺たちがいりゃ――」
「負けるわけねえのに」
小さな不満。
だが確かにある。
「……やめなさい」
静かな声。
だが――空気が止まる。
白猫。
長い脚。
無駄のない体。
「これは親方の決断です」
穏やかな口調。
「僕たちが口を挟むことじゃありませんよ」
モンとチッチが黙る。
だが、納得していない。
「でも……!」
その瞬間。
シロの目が変わる。
圧。
空気が沈む。
「……聞こえませんでしたか?」
低い。
「親方は“感じた”のです」
「だから従った」
一歩近づく。
「それ以上の理由が、必要ですか?」
沈黙。
「……すみません、シロさん」
押さえ込まれる。
完全に。
シロは何もなかったように前を見る。
(……確かに感じますねぇ)
小さく、心の中で呟く。
一方で――
「ゲンさんも物好きだよなぁ」
レオが軽く言う。
「はは、まあな」
ゲン太が笑う。
その後ろ。
チャチャは無言。
片目。
傷だらけの体。
ただ前を見る。
「でもよ」
レオが続ける。
「悪くないぜ、あいつら」
「筋は通ってる」
「話もできる」
「嫌いじゃない」
ゲン太が笑う。
「お前はそういうとこあるな」
チャチャは何も言わない。
ただ――
(……気に入らねえ)
心の奥で、何かがくすぶる。
「……なんか増えたな」
アキュラが振り返る。
「すごい数になってるじゃん」
「でも……」
ハリーが言う。
「頼もしいな」
ナナは少しだけ後ろを見る。
そして。
「……まだ」
「完全じゃない」
その一言。
風が吹く。
木が揺れる。
遠く。
何かの気配。
「……近いな」
ゲン太が呟く。
「……集まってきたな」
チュウジの声。
「力ある者たちが」
「だが――」
少し低くなる。
「力は、集まるほどに歪む」
「不満」
「疑念」
「野心」
「それらは、やがて形となる」
山道は続く。
ハグサ山へ。
まだ見ぬ“伝説”へ。




