第6話 境界の川 後編 ―渡る者たち―
「……境界とはな」
チュウジの声が静かに落ちる。
「ただ越えるだけの場所ではない」
「何を選ぶか」
「何を捨てるか」
「それを試される場所じゃ」
夜。
ワタル川の流れが唸る。
その上にかかる、朽ちた橋。
「……これか」
ハリーが呟く。
軋む音。
今にも崩れそうな足場。
「ほんとに渡れるのかよ……」
アキュラが顔をしかめる。
その時。
「……待って」
ナナが低く言う。
空気が変わる。
「いる」
「や、やめて……!」
橋の影。
子猫と雌猫。
囲む数匹の野良猫。
「ここは俺らの縄張りだ」
「通りたきゃ、全部置いてけ」
荒れている。
統率も、誇りもない。
ハリーが一歩出ようとする。
その前に――
「どけ」
ギンジが歩き出る。
「は?」
野良猫が振り向く。
「邪魔だっつってんだ」
次の瞬間。
速い。
一匹、吹き飛ぶ。
もう一匹、地面に叩きつけられる。
圧倒的。
「な、なんだこいつ……!」
「散れ」
低い一言。
野良猫たちは、逃げた。
残されたのは、震える親子。
「……大丈夫か?」
ハリーが声をかける。
雌猫は何度も頷く。
「ありがとうございます……」
ナナは何も言わない。
ただ、周囲を見ている。
遠くで声。
「おい!!」
「やられたぞ!!」
複数の気配。
「……来るな」
ギンジが呟く。
現れる。
野党のボス、ゲン太。
でかい。
傷だらけの体。
鈍い眼光。
「……誰だ、テメェら」
低く、重い声。
「ここは俺の縄張りだ」
空気が変わる。
「お前がボスか」
ギンジが言う。
「だったらどうした」
「……弱ぇな」
一瞬の静寂。
「……言ったな」
ゲン太の目が変わる。
突進。
重い。
ギンジが受ける。
だが――押される。
「チッ……!」
ナナが動く。
「ハリー、右」
瞬時の指示。
アキュラが突っ込む。
無茶な動き。
だが――崩れる。
ハリーが叩く。
重い一撃。
だが倒れない。
「いいな……!」
ゲン太が笑う。
長引く。
力 vs 連携。
何度もぶつかる。
何度も崩れる。
「……今」
ナナが呟く。
わずかな隙。
ハリーが踏み込む。
全力。
アキュラが横から崩す。
ナナが流れを固定する。
――決まる。
ゲン太が膝をつく。
静寂。
「……はは……」
「やるじゃねえか」
ゆっくり顔を上げる。
「一匹じゃ勝てねえ」
「だが三匹なら勝てる」
ナナを見る。
「お前が軸だな」
ハリーを見る。
「お前は盾だ」
アキュラを見る。
「お前は……流れを壊す」
笑う。
「面白え」
「どうする」
ギンジが言う。
「潰すか」
ナナが一歩出る。
「……いらない」
「使う」
ゲン太が笑う。
「いいねぇ」
「じゃあ、こっちからも条件だ」
「お前らの目的地を教えろ」
「ハグサ山まで」
全員が止まる。
「この先は危ねえ」
「だが、安全なルートは知ってる」
ナナは少しだけ考える。
「……いい」
「今日から俺らはお前らの下だ」
ゲン太が言う。
その言葉に、空気が変わる。
橋を渡る。
軋む音。
揺れる足場。
だが、止まらない。
渡りきる。
東州。
「ついてこい」
ゲン太が言う。
「ハグサ山まで、最短で行ってやる」
「……越えたな」
チュウジの声。
「境界を」
「そして、手に入れた」
「新たな力を」
わずかに低くなる。
「だが――」
「ここからが本番じゃ」




