第5話 境界の川 前編 ―西州の果て―
「……この地は“両州”と呼ばれておる」
チュウジの声が静かに響く。
「西州と東州」
「似て非なる、二つの世界」
「そして、その境にあるのが――」
「ワタル川じゃ」
「カラスのこと、まだ“ただの鳥”だと思ってるか?」
キジオが言う。
「……違うのか?」
ハリーが答える。
「違う」
「やつらは“西州クロウズ”」
空気が変わる。
「統率された群れだ」
「役割もある」
「命令もある」
「ボスもいる」
ナナの目が細くなる。
「俺たちが住んでるのは西州ウラオ区」
ギンジが言う。
「猫も人間も多い」
「だから争いが絶えねえ」
「強えやつが上に立つ」
「弱えやつは消える」
「ワタル川を越えれば東州カガシア区」
「山と森の世界だ」
「人間は少ない」
「その代わり――」
「自然が牙をむく」
「イノシシ、鹿、ハクビシン……」
「猫が狩られる側になることもある」
「あと一つ、覚えとけ」
ギンジが低く言う。
「この両州には、“まとめ役”がいる」
「両州キャッツだ」
キジオが頷く。
「最大勢力だな」
「バラバラだった縄張りをまとめた連中だ」
「誰が?」
ハリーが聞く。
「タカウジ」
「でけえノルウェージャンの猫だ」
「強いだけじゃねえ」
「“まとめる力”がある」
「争いを減らし、生き残る数を増やした」
「ただし――」
「全員が従ってるわけじゃねえ」
ギンジが笑う。
「俺みたいにな」
「ゾロもその一人だ」
「従ったわけじゃねえ」
「力を認められて」
「“一つの軍”として並んでる」
ナナの目が静かに動く。
「橋は二つ」
キジ子が言う。
「大橋と古い橋」
「大橋は――」
「西州クロウズの狩場」
沈黙。
「古い橋は?」
「……誰も近づかない」
「理由は不明」
「戻るか?」
ギンジ。
「……行く」
ハリー。
「行く」
ナナ。
「俺たちが最後まで見てやるよ」
キジオ。
「情報屋としてね」
キジ子。
「……妙だな」
ギンジが呟く。
「昔、似た感覚を知ってる」
「……気のせいか」
夜。
境界へ。




