第4話 牙の行き先
「……力でねじ伏せるのは簡単じゃ」
チュウジの声が、静かに響く。
「だがな」
「“従わせる”というのは、まったく別の話になる」
わずかに目を細める。
「そこには、納得がいる」
「誇りがいる」
「そして――」
「自分で選ぶ覚悟がいる」
その場には、まだ緊張が残っていた。
ギンジは立っている。
だが、もう攻撃の気配はない。
ハリーは息を整えながら、構えを解かない。
「……なんで、来ねえんだ」
勝ったはずなのに。
終わっていない気がする。
ギンジは、三匹を見ていた。
順に。
ハリー。
ナナ。
アキュラ。
そして、ぽつりと呟く。
「最初はな」
「ただのガキだと思ってた」
「震えてやがったしな」
ハリーがわずかに顔をしかめる。
「怖がりだ」
否定できない。
「だが――逃げなかった」
ギンジの目が、わずかに変わる。
「それだけで、“戦う理由”は十分だ」
次に、ナナを見る。
「お前は、戦ってねえ」
ナナは黙っている。
「だが、“全部見てやがる”」
「動きも、流れも、間も」
「……気持ち悪いくらいにな」
アキュラへ。
「で、お前」
「はい?」
「バカだな」
「ひどくね!?」
だが、ギンジは笑う。
「だが、そのバカが流れを壊す」
「計算じゃねえ動きが、全部ズラす」
少しの沈黙。
ギンジは空を見上げる。
「……一匹じゃねえ強さ」
ぽつりと呟く。
「久しぶりに見た」
視線を戻す。
「噛み合ってやがる」
「……だからだ」
ギンジが言う。
「負けたから従うわけじゃねえ」
はっきりと。
「納得したから、従う」
その言葉に、空気が変わる。
周囲にいた猫たちも、ざわつく。
「ここはオレの縄張りだ」
「オレが守ってきた」
「オレが決める」
一歩、前に出る。
「今日から――お前らが上だ」
はっきりと、言い切る。
「……マジかよ」
アキュラが呟く。
ハリーは言葉が出ない。
ナナは、ただ見ていた。
ギンジの目を。
「……いいのね」
ユキが静かに言う。
「後悔しない?」
「しねえよ」
即答だった。
「むしろ、しねえための選択だ」
ユキは、小さく息を吐く。
「……ならいい」
そして。
再び、ナナを見る。
ナナの中で、また揺れる。
「……なんなの」
さっきより強い。
近い。
どこか――似ている。
だが、分からない。
理解できない。
それでも。
目を逸らせなかった。
「おい」
ギンジが声をかける。
「名前、なんつった」
「ハリー」
「ナナ」
「アキュラ!」
「……そうか」
短くうなずく。
「オレはギンジだ」
改めて名乗る。
「ギンジ、以下12匹。これからは、同じ側だ」
「……ハグサ山に行く」
ナナが言う。
「ゾロを知るために」
ギンジの目が、わずかに動く。
「ゾロ、か……」
何かを知っている顔だった。
「……いいだろう」
「オレも行く」
「……こうして」
チュウジの声が重なる。
「あやつらは、“仲間”を得た」
「だがな」
わずかに声が低くなる。
「それは、終わりではない」
「始まりじゃ」
目を細める。
「強さとは、重なるもの」
「一匹では届かぬ場所へ――」
「群れは、進む」




