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まさか!うちのニャンコが?!―伝説を継ぐ者たち―  作者: トネガワ ワタル


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第53話 誰かを守る事

古い家。


夕暮れ。


囲炉裏には小さな火が灯り、部屋の中は静かな温もりに包まれていた。


空腹だったわしは腹いっぱい餌を食べた。


満腹と緊張が解けたせいで眠気が訪れた。


(あったかい……。)


久しぶりじゃった。


安心して眠れそうだと思えたのは。



その時じゃった。


コンコン……


玄関を叩く音。


老人は静かに立ち上がる。


障子を少しだけ開け外を見た。


「……。」


表情が曇る。


「やっぱり来たか。」


玄関の向こうには数人の男がおった。


「じいさん。」


「珍しい猫がいるらしいな。」


「ちょっと見せてくれよ。」


老人は静かに首を振る。


「帰んな。」


「うちには売り物なんぞおらん。」


男たちの空気が変わり。


「頑固じじいが。」


一人が玄関へ足をかけた。


老人は庭にあった竹ぼうきを手に取る。


「この歳で喧嘩ぁしたくねぇんだがな。」


そう呟く。


(あの人……。)


わしは部屋の奥から見ておった。


また。


自分のせいだ。


また誰かが傷つく。


胸が締め付けられる。



しかし次の瞬間。


森の奥から低いうなり声が響いた。


グルルル……


野犬。


三匹。


男たちの顔色が変わった。


「やべぇ!」


「逃げろ!」


蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


じゃが。


野犬たちは逃げる男ではなく。


家の中を見ていた。


子猫のわし。


老人。


獲物を見つけた目じゃった。


一匹が飛び込んくる。


老人は迷わず前へ出た。


「こらっ!」


竹ぼうきを振るう。


しかし。


ガブッ!


腕に牙が食い込むのが見える。


「ぐっ……!」


血が畳へ落ちた。


(やめろ……。)


わしは身体が震えておった。


二匹目。


三匹目。


飛びかかる。


老人は踏ん張る。


それでも。


押し返せない。


(なんで……。)


(なんでこの人が……。)


(ぼくなんかのために……。)


戦う老人を見て恐怖とは別の感情が湧いてきたのじゃ。



その時。


老人と目が合った。


老人は苦しそうに笑った。


「逃げろ。」


「お前は……生きろ。」


その一言がきっかけじゃった。


身体が勝手に動いた。


まだまだ小さな身体じゃったがな。


野犬へ飛びかかるが当然かなわない。


弾き飛ばされ畳へ転がる。


痛い。


苦しい。


怖い。


それでも。


(この人を守りたい。)


その想いだけが強くなっていった。



次の瞬間。


部屋の空気が変わり風が止んだように感じた。


身体から青白い光が溢れ時間の流れが遅くなる。


すると。


野犬たちが後ずさりしている。


老人が目を見開きわしの方を向く。


「……その目。」


わしは必死に野犬たちに飛び掛かる。


ドォォン!!


衝撃。


青白い光が一気に広がる。


野犬たちは吹き飛び。


壁へ叩きつけられる。


悲鳴を上げながら森へ逃げていった。



わしはその場へ倒れる。


自分でも何が起こったかわからないまま。


意識が遠のく。


最後に見えたのは。


涙ぐみながらわしを抱き上げる老人の姿じゃった。




数日後。


傷も癒え始めた頃。


老人は縁側へ座り、お茶をすすっていた。


わしは隣に行き座った。


老人は空を見上げたまま話し始める。


「不思議な力だったなぁ。」


「でもわしはな…」


「若い頃にも二匹、見たことがある。」


この老人はあの力を知っておった。


「一匹目はな。」


「誰かを守るために戦う、本当に立派な猫だった。」


老人は少し笑う。


「二匹目は……。」


笑顔が消える。


「怒りに呑まれちまった。」


「力を振るうことしか考えなくなってな。」


「最後には、自分まで壊れちまった。」


老人は優しくわしの頭を撫でながら続ける。


「だから覚えとけ。」


「力ってのは便利なもんだ。」


「でもな。」


少し間を置き。


「力に使われちゃいけねぇ。」


「使うのは、お前自身だ。」


その時は意味までは分からなかった。


それでも。


その言葉だけは胸に残った。



老人はわしを膝の上へ乗せ優しく頭を撫でながら笑った。


「名前が無いってのも不便だなぁ。」


「……そうだ。」


少し空を見上げる。


「あいつも、こんな三毛猫が好きだったな。」


誰かを思い出してるようじゃった。


「あいつの名前は"忠次(チュウジ)"。」


「わしの親友だった。」


少しだけ寂しそうに笑いながら語ってくれた。


「正義感だけは人一倍でな。」


「困ってる奴を見ると放っとけねぇ。」


「そのせいで損ばっかりしてた。」


クスッと笑う。


「でも。」


「最後まで筋だけは曲げなかった。」


少しの沈黙の後。


老人はわしの目をじっと見ながら言う。


「お前も。」


「そんな猫になれ。」


「誰かを守れる猫にな。」


「誰かのために怒れる猫にな。」


「でも。」


「怒りに飲まれる猫にはなるな。」


「力に使われるような生き方だけはするな。」


意味など分からない。


それでも。


その声は不思議と胸に残っておる。



「今日からお前は。」


「チュウジだ。」


そう言い老人は笑う。


「ニャ。」


「お、返事だけはいいな。」


返事をすると老人は声を出して笑った。



人間に飼われた事のないわしが。


人間の優しさに触れた事で運命が変わった日じゃった。

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