第50話 新たな影
ハグサ山。
遠征部隊が山へ戻ると、待っていた猫たちから歓声が上がった。
「お帰り!」
「ゾロさん!」
「タカウジさん!」
真っ先に駆け寄ってきたのはアキュラだった。
「聞いて聞いて!」
「俺さ!」
「ゴリオさんを説得したんだぜ!」
胸を張るアキュラ。
周囲は静まり返る。
「……。」
「……。」
ミツが首をかしげる。
「ホントか?」
カンも腕を組む。
「お前が?」
「ほんとだって!」
アキュラは必死に訴える。
「『守るために戦う!』って俺が言ったらさ!」
「ゴリオさんが『ガハハハ!気に入った!』って!」
「で、仲間になってくれたんだ!」
「ほんとですかぁ?」
ハチ公まで疑いの目。
「本当なんですよ…これが…」
ポンズが苦笑いしながら口を開く。
「今回はアキュラの一言が決め手になった。」
「え?」
一同が目を丸くする。
「マジかよ!」
ギンジが笑う。
「たまには役に立つんだな。」
「たまにはって何だよ!」
「失礼しちゃうなぁ!」
するとゾロが笑いながら口を挟む。
「いやぁ〜。」
「俺もびっくりした。」
「親父の出番が全部なくなっちゃったもんなぁ。」
「父ちゃんまで!」
「ひどい!」
大笑いする猫たち。
アキュラは口を尖らせる。
「笑いすぎだろ!」
その姿に、さらに笑いが起きた。
ひとしきり笑ったあと。
ゾロが振り返る。
「そうそう。」
「新しい仲間を紹介しよう。」
二匹の猿が前へ出る。
一匹は無表情。
もう一匹はニコニコしている。
「俺はダフ。」
短く頭を下げる。
「……よろしく。」
あまりにも淡々としている。
「なんか怒ってる?」
アキュラが小声で聞く。
「違う。」
ダフは即答した。
「元からこういう顔だ。」
「そういう顔なの!?」
思わずツッコむアキュラ。
その横で笑いながら前へ出たもう一匹。
「俺はマット!」
「よろしくな!」
「ダフは無愛想だけど、根はすっげぇいい奴だから気にすんな!」
「余計なことを言うな。」
「ほらまたそういうとこ!」
マットが豪快に笑う。
場の空気が一気に和んだ。
ゾロが説明する。
「ゴリオンズとの連絡役だ。」
「しばらくハグサ山で一緒に過ごす。」
「よろしく!」
猫たちも歓迎する。
しかし。
和やかな空気は長く続かなかった。
ミツが表情を引き締める。
「実は……。」
遠征中に起きた出来事を話し始めた。
イタチの襲撃。
見張りの負傷。
子猫たちへの奇襲。
そして。
ハリーが仲間へ指示を出し、皆を救ったこと。
話を聞き終えたゾロは、しばらく黙っていた。
そして。
ゆっくりと笑う。
「そうか。」
「アキュラに続いて……。」
「ハリーもか。」
どこか誇らしげだった。
ハリーは照れ臭そうに頭をかく。
「俺……。」
「とっさに動いただけだよ。」
チュウジが静かに言う。
「その『とっさ』ができる者は少ない。」
「皆がお前についていった。」
「それが答えじゃ。」
ゾロはハリーの頭を優しく前足で叩いた。
「よくやった。」
「父ちゃん……。」
その一言だけで十分だった。
だが。
問題は残っていた。
「イタチ……か。」
ギンジが唸る。
「この辺じゃ見ねぇ連中だ。」
「目的も分からねぇ。」
カンも頷く。
「食い物目的には見えなかった。」
「明らかに狙って侵入してきた。」
シロが考え込む。
「目的はまだ分かりません。」
「ですが、偶然の襲撃とは思えません。」
ゾロは空を見上げた。
「敵はクロウズだけじゃねぇってことか。」
「今まで以上に警戒を強める。」
「ハグサ山は、みんなで守るぞ。」
「おう!」
力強い返事が山に響いた。
――その頃。ウキリ区。
クロウズのアジト。
一羽の情報係が降り立つ。
「報告します。」
「ハグサ山の猫ども。」
「ドウギ山の猿軍団"ゴリオンズ"と同盟を結んだようです。」
コールディーの目が鋭くなる。
「……猿だと?」
「はい。」
「正式に同盟を結んだようです。」
情報係が報告を終える。
コールディーは苛立ちながら鉄骨を蹴る。
「タオ区はハゲタカども……。」
「猫は猿と手を組みやがった……。」
「チッ……。」
その時。
鉄骨の最上段。
姿は見えない。
黒牙の低い声だけが響く。
「……焦るな。」
コールディーはすぐ頭を下げる。
「申し訳ありません。」
少し間が空く。
黒牙。
「近衛兵達に伝えろ。」
「……準備だけはしておけ、と。」
その一言だけ。
鉄骨のさらに上。
闇の中。
カシャン……
鉄骨を踏む音。
一瞬だけ。
赤く光る数対の瞳。
姿は見えない。
名前もまだ出ない。
"近衛兵"




