表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まさか!うちのニャンコが?!―伝説を継ぐ者たち―  作者: トネガワ ワタル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/52

第51話 語られぬ過去

――ギアカ山。


 ウキリ区との境にそびえるなだらかな裾野の山。


 季節によって表情を変える西州を象徴する山である。



 深い森の中を、数匹のイタチが傷だらけの身体を引きずるように走っていた。


「はぁ……はぁ……。」


「くそっ……!」


 木陰へ飛び込むと、その場に倒れ込む。


「お、おい!」


「話が違うじゃねぇか!」


 一匹のイタチが怒鳴る。


「ボスがいなけりゃ楽勝なんじゃなかったのか!」


「雑魚ばっかだって言ってただろ!」


 その声の先。


 茶トラ猫が横たわっていた。


 全身に無数の傷。


 それでも、その目だけは鋭く光っている。



 チャチャだった。


「あぁ?」


「俺がいた頃はそんなもんだったんだよ。」


 舌打ちする。


「とんでもねぇ!」


「仲間が何匹もやられたんだぞ!」


「変な力まで使いやがって!」


「変な力?」


 チャチャがゆっくり顔を上げる。


「ああ。」


「ニャオスとかいうやつだ。」


「一瞬で動きやがる奴までいた。」


「何なんだよ、あれは。」


 チャチャは鼻で笑った。


「ニャオス、ねぇ。」


「あんなもん大したことねぇよ。」


 そう言いながらも、心の奥では違和感を覚えていた。


(ニャオス……?)


(俺がいた頃、そんな力を使える奴なんざ……。)


 だが、その成長を知るはずもない。


 チャチャは修行に参加しなかったのだから。



「お前……。」


 一匹のイタチが睨む。


「本当にあの山の猫なのか?」


「なんか信用ならねぇぞ。」


 チャチャはゆっくり立ち上がる。


「……分かったよ。」


「傷が癒えたら。」


「今度は俺も行く。」


「俺が先頭に立ってやる。」


 拳を握る。


「今度こそ……。」


「あいつらを全部ぶっ壊してやる。」


 燃え上がる憎悪。


 その黒い炎は、復讐という名の新たな戦いを生み出そうとしていた。




――ハグサ山。


 遠征を終えた山には、再び穏やかな時間が流れていた。


 その中で。


 ナナとユキは静かに歩いていた。


 向かう先は、チュウジの住み家。


「あれ?」


 ユキが辺りを見回す。


「父さんは?」


 チュウジは穏やかに答えた。


「ああ。」


「久しぶりに、じーちゃんとばーちゃんの所へ顔を出しに行った。」


「じーちゃんとばーちゃん……。」


 ユキは微笑む。


「私たちが生まれた家ですね。」


「そうじゃ。」


「きっと喜んどるじゃろう。」


 少しだけ空気が和らぐ。


 しかし。


 ナナの表情は変わらなかった。


「……チュウジさん。」


「ん?」


「ずっと聞きたかったことがあるの。」


 チュウジは静かにナナを見る。


「私たちのお母さんって……。」


 一瞬。


 空気が止まる。


「どこにいるの?」


 チュウジは目を閉じた。


 やはり、そのことか。


 そんな表情だった。


 長い沈黙。


 ナナは続ける。


「……生きてるんだよね?」


 チュウジは小さく息を吐く。


「……。」


「わしの口からは言えぬ。」


「なんで?」


 思わず声を上げるナナ。


「どうして?」


 チュウジは首を横に振った。


「いずれ。」


「時が来れば。」


「ゾロ殿、自らがお前たちへ話す日が来る。」


「それまでは……。」


「待ってやってくれ。」


 ナナは悔しそうに唇を噛む。


 ユキも何かを察した。


 これ以上は聞いてはいけない。


 そんな空気だった。



 しばらく沈黙が流れる。


 やがて。


 ナナが小さく笑った。


「……じゃあさ。」


「チュウジさんのこと、教えてよ。」


「なんと?」


「そうだよ。」


 ユキも笑う。


「もしかしたら、一番謎なのってチュウジさんかも。」


「謎……か。」


 チュウジは肩を揺らし、珍しく笑った。


「こんな老いぼれの話で良ければ。」


「いくらでもしてやろう。」


 そう言うと、ゆっくり空を見上げる。


 木々の隙間から、夕日が差し込んでいた。


「今では知る者も、ほとんどおらん。」


「まだゾロ殿も生まれる前……。」


「"両州キャッツ"という名すらなかった頃の話じゃ。」


 ナナとユキが顔を見合わせる。


「えっ……。」


「そんな昔から?」


 チュウジは静かに頷く。


「若かった頃のわしは。」


「とにかく生きる事に必死じゃった。」


 その目は、遠い過去を見つめていた。


 語られなかった歴史。


 忘れられた戦い。


 そして。


 今へと繋がる、すべての始まりが――。


 静かに幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ