第47話 守るために
ゴリオの問いに、その場の空気が凍りつく。
「お前たちは――」
「何のために戦う?」
誰も答えない。
重苦しい沈黙。
ゴリオは六匹を順番に見回す。
そして――
「……さっきの小僧。」
大きな指が一匹を指した。
「お前だ。」
「答えてみろ。」
「えっ?」
アキュラは目を丸くする。
「お、俺ぇ!?」
一気に青ざめた。
隣ではポンズが頭を抱える。
「あちゃ~……。」
「よりによって……。」
思わず前へ出ようとする。
「俺が――」
その肩をゾロが止めた。
「いや。」
「アキュラが答えろ。」
「へ!?」
さらに慌てるアキュラ。
ゴリオはニヤリと笑う。
「さぁ。」
「聞かせてもらおうか。」
アキュラは俯いた。
(どうしよう……。)
(何て言えば……。)
しばらく考え込む。
やがて、小さく口を開いた。
「えっと……。」
一呼吸。
「守る……。」
顔を上げる。
目には迷いがない。
「守るためだ!!」
山に声が響く。
ゴリオは腕を組む。
「ほう。」
「何を守る?」
アキュラはゆっくり話し始めた。
「最初はさ……。」
「そんな感覚、知らなかったんだ。」
「俺、飼い猫だったから。」
「逆に守られてたんだろうなって思う。」
静かに続ける。
「でも。」
「見ちまったんだよ。」
「猫がカラスに襲われるところ。」
「畑が荒らされて。」
「とーちゃんとかーちゃんみたいな人間たちが悲しむところ。」
一瞬、遠くを見る。
「その頃。」
「ゾロっていう、すげぇ猫がいるって知ったんだ。」
ゾロが頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。
「いやぁ~、照れるなぁ。」
アキュラは笑う。
「会えば何か変わる気がした。」
「大事な人たちを。」
「猫たちを。」
「守れるようになるんじゃないかって。」
ゴリオは静かに頷く。
「人と猫だけ守るためか?」
「……最初はな。」
その返事に、ゴリオの眉がわずかに動く。
アキュラは続ける。
「悪いカラスをやっつけたいと思ったのが始まりだ。」
「でも。」
「カラスの中にもいい奴がいた。」
「犬とも仲良くなれたらしいし。」
「猿のみんなとも、きっと仲良くなれる。」
一歩前へ。
「だから今は――」
「山を守る。」
「そんな感じかな。」
静寂。
ゾロは腕を組みながら何度も頷いていた。
ポンズも小さく息を吐く。
(……よく言った。)
ゴリオはしばらくアキュラを見つめる。
「なるほどな。」
その時。
誰にも見えないように。
ゾロがこっそり親指を立てた。
アキュラも小さく笑う。
ポンズはその様子を見て苦笑した。
「まったく……。」
今度はゾロが一歩前へ出る。
「俺たちはな。」
静かな声だった。
「勝つために戦ってるんじゃねぇ。」
「攻めるためでもねぇ。」
風が吹く。
「守りたいものがある。」
「だから戦う。」
一歩。
さらに前へ。
「そのために強くなろうと集まった連中。」
「それが――」
ゾロの目が鋭く光る。
「両州キャッツだ!!」
ドンッ――。
空気が震えた。
目には見えない圧。
その場の木々がざわめく。
アクセルとスラッシュが思わず息を呑む。
ゴリオでさえ、一瞬だけ目を見開いた。
(……これが。)
(ハグサ山のゾロ。)
ゆっくりと俯く。
そして――
ニヤリ。
「フッ……。」
顔を上げる。
「聞きしに勝る漢だな。」
続けてアキュラを見る。
「そっちの小僧も。」
「なかなか面白ぇ。」
アキュラは胸を張る。
「へへっ!」
「親子だからな!」
一瞬の沈黙。
ゴリオは目を丸くした。
「……なんと。」
「そうだったのか。」
そして。
「ガァーーッハッハッハッ!!」
豪快な笑い声が山中へ響き渡る。
「なるほど!」
「面白ぇ!!」
岩山が震えるほど笑ったあと。
ゴリオは大きく腕を広げる。
「俺たちで良けりゃ――」
「力になるぜ!!」
「おっしゃあ!!」
ゾロとアキュラの声が見事に重なった。
後ろではタカウジが笑う。
「俺たちの出番はなかったな。」
ポンズも肩をすくめる。
「正直……。」
「アキュラが答えるって聞いた時は冷や汗ものでしたけどね。」
二匹は顔を見合わせて笑った。
その時。
アキュラがゴリオを見上げる。
「ねぇ。」
「ゴリオさん。」
「バナナとか、もらえるの?」
…………。
一瞬。
山全体が静まり返る。
ポンズが額を押さえる。
「オメェって奴はぁぁぁぁ!!」
ドゴッ!
猫パンチ炸裂。
「ひえぇぇぇぇ!!」
アキュラは岩山をごろごろ転がっていく。
それを見たゴリオたちは腹を抱えた。
「ガッハッハッハ!!」
「最高じゃねぇか!」
山には、大きな笑い声がいつまでも響いていた――。




