第43話 裏切りの翼
タオ区。
フリーの縄張り。
二羽のカラスが頭を下げていた。
フウ。
そしてニール。
「頼む」
フウが言う。
「俺たちを仲間にしてくれ」
「あいつらに騙されてたんだ」
周囲がざわつく。
「ふざけんな!」
「クロウズの手先だろ!」
怒号が飛ぶ。
「やっぱりタオ区を守りてぇんだ」
二羽は懇願する。
だがフリーは黙っていた。
「……」
しばらく考える。
そして。
「いいぞ」
部下たちが驚く。
「フリー!」
「本気かよ!?」
だがフリーは静かだった。
「過去はどうでもいい」
「今どうするかだ」
フウとニールは顔を見合わせた。
胸が痛む。
本当は。
自分たちは仲間ではない。
潜り込むために来たのだから。
数日後。
空が曇る。
不気味な風が吹いていた。
見張りが叫ぶ。
「敵だ!!」
大量の羽音。
クロウズ。
先頭にはコールディー。
その隣にアリ。
そしてモンジとウニ。
「来やがったか」
フリーが前へ出る。
仲間たちも続く。
戦闘開始。
その時だった。
「今だ」
アリが笑う。
次の瞬間。
後方で悲鳴が上がった。
「なっ!?」
振り返るフリー。
そこには。
フウ軍。
ニール軍。
仲間のはずのカラスたちが攻撃していた。
「悪く思うな」
フウ。
「俺たちも生きるためだ」
ニール。
前。
後ろ。
完全包囲。
部下たちが次々倒れる。
混乱。
悲鳴。
怒号。
戦線は崩壊していく。
コールディーが笑う。
「終わりだ」
冷たい声。
「これが戦争だ」
フリーは歯を食いしばる。
嘴から血が流れるほどに。
だが。
どうにもならない。
完全な敗北。
誰もがそう思った。
その時。
――ドォォォン!!
爆発のような衝撃。
クロウズ数羽が吹き飛ぶ。
全員が空を見る。
巨大な影。
先頭を飛ぶ一羽。
鋭い眼光。
大きな翼。
「またかよォォォ!!」
モンジの悲鳴が響いた。
ハゲタカだった。
その後ろにはシノ。
そして精鋭たち。
再び。
いや、三度か。
ハゲタカ軍団が現れた。
コールディーが目を細める。
「またお前か」
ハゲタカは鼻で笑った。
「よくもまあ」
「毎回毎回」
「汚ねぇことばっか思いつくな」
コールディーの目が冷たく光る。
「勝つためだ」
ハゲタカ。
笑う。
「つまらねぇ生き方だな」
そして翼を広げた。
「行くぞ野郎ども!!」
空気が震える。
「行くわよ!」
シノが突撃する。
その速度にクロウズたちは反応できない。
一羽。
二羽。
三羽。
次々と叩き落される。
「つ、強ぇ……」
フリーの部下たちが呆然とする。
本気のハゲタカ軍団は今までとは違った。
本物の精鋭達だった。
一方。
ハゲタカとコールディー。
互いに睨み合う。
「邪魔だ」
コールディー。
「気に入らねぇんだよ」
ハゲタカ。
「お前みたいな奴はな」
激突。
羽。
爪。
嘴。
空中で火花が散る。
凄まじい衝撃。
周囲の者は近づけない。
その頃。
フリー軍。
状況は依然として苦しかった。
フウ。
ニール。
二羽は戦場の中で立ち尽くしていた。
目の前には。
自分たちを信じてくれた仲間たち。
女子供を守ろうとする者たち。
傷だらけになりながら戦う者たち。
胸が痛む。
苦しい。
そして。
フリーが叫んだ。
「お前ら!」
二羽が振り返る。
「まだ戻れるぞ!」
その言葉。
その一言が。
二羽の心を突き刺した。
「……クソ」
ニール。
「俺たち」
フウ。
「何やってんだ」
沈黙。
そして。
フウが振り返る。
仲間を見る。
「クロウズをやれ!!」
その叫び。
全員が凍り付く。
「なっ!?」
アリが目を見開く。
「今さら何を!」
だが止まらない。
ニールも叫ぶ。
「俺たちはフリー軍だ!!」
次々と部下達の矛先が変わる。
クロウズへ。
完全な反旗だった。
戦況は一変した。
ハゲタカ軍。
フリー軍。
フウ軍。
ニール軍。
四つの勢力が一つになる。
クロウズは押し返される。
アリ負傷。
モンジ負傷。
ウニ負傷。
そして。
コールディーの翼にも傷が刻まれる。
初めてだった。
コールディーが後退する。
静かに周囲を見渡す。
そして。
「退け」
全軍が固まる。
「え?」
モンジ。
「ですが!」
ウニ。
「退け」
二度目の命令。
誰も逆らえない。
クロウズは撤退を始めた。
去り際。
コールディーが振り返る。
視線の先。
ハゲタカ。
「次に会う時は」
冷たい声。
「俺が直々に殺してやる」
ハゲタカは笑った。
「楽しみにしとくよ」
戦いは終わった。
静寂。
フリーが近づく。
「助かった」
ハゲタカはそっぽを向く。
「勘違いするな」
「助けたつもりはねぇ」
フリー。
笑う。
「それ聞くの三回目だ」
周囲から笑いが漏れる。
緊張がほどける。
するとシノが言った。
「もう一緒にやればいいじゃない」
フリー軍も賛成する。
「そうだそうだ!」
「共闘しようぜ!」
ハゲタカが顔をしかめる。
「うるせぇな」
するとフリー。
「じゃあ名前でも決めるか」
「名前?」
「俺たちの軍団の」
沈黙。
全員がハゲタカを見る。
ハゲタカ。
「知らねぇよ」
するとシノ。
「じゃあハゲタカ軍団で」
一瞬の静寂。
そして。
大爆笑。
「それでいい!」
「分かりやすい!」
「最高だ!」
「ふざけんなァァ!!」
ハゲタカの絶叫が山に響く。
その頃。
遠く離れたクロウズのアジト。
戻ったコールディーは静かに傷を舐めていた。
モンジもウニも黙っている。
アリは俯いていた。
長い沈黙。
やがて。
コールディーが呟く。
「一段と面白くなりそうだな」
その目には。
今まで以上に冷たい光が宿っていた。
嵐はまだ終わらない。
むしろ――
ここからが本当の始まりだった。




