第41話 誇り
タオ区。
地獄兄弟を撤退させた。
だが。
戦いの傷跡がまだ残る森。
折れた枝。
散らばる羽。
乾き始めた血。
フリーは空を見上げていた。
「……お前」
その視線の先。
飛び去ろうとしていたハゲタカが足を止める。
「クロウズだったのか」
少しの沈黙。
「ああ」
興味なさそうに答える。
「昔な」
フリーの部下たちがざわつく。
裏切り者。
そう呼ばれていた意味を理解したのだ。
「信用できねぇな」
誰かが言う。
ハゲタカは鼻で笑った。
「好きにしろ」
そして振り返る。
「だが一つだけ言っとく」
鋭い目。
「あいつらは汚ぇ」
「正面から来ると思うな」
「女子供から狙う」
フリーの表情が険しくなる。
「……」
「じゃあな」
それだけ言い残し、ハゲタカたちは飛び去った。
フリーはしばらくその背中を見つめていた。
数日後。
タオ区。
平穏な昼。
その平穏は突然破られた。
「大変だ!」
若いカラスが飛び込んでくる。
「東の巣が襲われた!」
「何!?」
「子供たちが危ない!」
フリーが立ち上がる。
「救出だ!」
「急げ!」
多くの仲間が飛び立つ。
誰も疑わなかった。
それが罠だとは。
本拠地。
残されたのはフリーと少数の仲間たち。
その時。
空が陰った。
大量の影。
兄。
アビ。
弟。
アリ。
そして地獄兄弟の部下たち。
「よう」
アビが笑う。
「最後通告だ」
「クロウズに下れ」
フリーは即答した。
「断る」
「そうか」
アリが笑う。
「じゃあ死ね」
戦闘開始。
だがまともな戦いではなかった。
背後から襲う。
囮を使う。
負傷者を狙う。
仲間を盾にする。
卑劣。
その一言に尽きた。
「クソッ!」
フリーが叫ぶ。
仲間が落ちる。
また一羽。
また一羽。
数が減っていく。
「終わりだな」
アビが笑う。
その時。
轟音。
突風。
アビの体が吹き飛んだ。
「なっ!?」
全員が振り返る。
そこにいた。
「……だから言ったろ」
ハゲタカ。
シノ。
そして精鋭たち。
「汚ぇ真似が嫌いだってな」
その目には怒りが宿っていた。
激突。
ハゲタカ対アビ。
シノ対アリ。
精鋭同士の空中戦。
激しい。
速い。
重い。
「正面から来やがれ!」
ハゲタカが叫ぶ。
「バカが勝てる時代じゃねぇんだよ!」
アビが嘲笑う。
だが。
次の瞬間。
ハゲタカの嘴が。
アビの喉を貫いた。
静寂。
誰も動けない。
地獄兄弟の兄。
アビ。
絶命。
「兄貴ぃぃぃ!!」
アリが叫ぶ。
その隙。
シノが突撃する。
轟音。
アリが吹き飛ばされる。
致命傷は免れた。
だが戦える状態ではない。
「撤退だ!!」
地獄兄弟の軍勢が崩れた。
逃走。
完全敗北だった。
戦いが終わる。
フリーたちは呆然としていた。
助かった。
だが。
礼を言う前に。
ハゲタカは背を向ける。
「待て」
フリーが呼ぶ。
ハゲタカは振り返らない。
「助けてくれたのか」
「勘違いするな」
小さく笑う。
「俺が気に入らなかっただけだ」
そのまま飛び去る。
シノたちも続いた。
フリーは見送る。
そして思う。
(あいつは……)
(クロウズとは違う)
クロウズのアジト。
重苦しい空気。
傷だらけのアリ。
その姿を見て。
黒牙の顔が歪む。
「兄貴は……」
震える声。
「殺された」
沈黙。
次の瞬間。
「ハゲタカァァァァァ!!」
怒号。
巣全体が震えた。
黒牙の殺気が爆発する。
「許さん……!」
「絶対に許さんぞ!!」
だが。
その横で。
コールディーだけは静かだった。
「面白い」
ゆっくり立ち上がる。
モンジが震える。
ウニも息を呑む。
「俺が行く」
その一言。
空気が変わった。
黒牙ですら黙る。
コールディーの目が細まる。
「ハゲタカ」
「フリー」
「まとめて終わらせてやる」
静かに笑う。
それは。
西洲全体を揺るがす嵐の始まりだった――。




