第38話 地獄兄弟
西州タオ区。
夕暮れ。
山の尾根に無数の黒い影が並んでいた。
クロウズの刺客。
率いるのは通称”地獄兄弟”。
兄のアビ。
弟のアリ。
「終わりか?」
アビが見下ろす。
その下。
傷だらけのカラス達。
フウ軍団。
ボスであるフウも満身創痍だった。
「クソ……」
立ち上がろうとする。
だが。
アリが首元へ降り立つ。
鋭い爪。
「まだやるか?」
笑っている。
その目は笑っていない。
フウは子分達を見る。
誰も動けない。
皆傷だらけ。
「……負けだ」
アビがニヤリとする。
「賢い判断だ」
こうして。
フウ軍団はクロウズ傘下となった。
その翌日。
今度はニール軍団。
こちらはさらに激しかった。
「誰が従うか!」
ニールが突撃する。
だが。
アビがかわす。
アリが背後を取る。
そして。
子分を一羽捕まえた。
「ボス!!」
悲鳴。
「やめろ!」
ニールが叫ぶ。
アリが笑う。
「じゃあ降参しろ」
沈黙。
歯ぎしり。
悔しさ。
それでも。
「……分かった」
ニールも膝をついた。
二つ目。
制圧完了。
残るは一つ。
フリー軍団。
タオ区北部。
「断る」
フリーは即答した。
「誰にも従わねぇ」
戦闘開始。
地獄兄弟。
圧倒的。
フリー軍団は押される。
「終わりだな」
アビが爪を振り上げる。
その瞬間。
ドォン!!
衝撃。
アビが吹き飛ぶ。
「なに!?」
現れた影。
大きな翼。
鋭い嘴。
ハゲタカ。
「趣味悪ぃな」
フリーが目を見開く。
「お前……」
「助けに来たわけじゃねぇ」
ハゲタカは言う。
「ただ」
「こいつらのやり方が嫌いなだけだ」
アリが睨む。
「裏切り者が」
「そうかもな」
ハゲタカが笑う。
そして。
一触即発。
だが。
アビが翼を広げた。
「退くぞ」
「兄者?」
「今はな」
ハゲタカを見つめる。
「次は逃がさねぇ」
撤退。
そのままクロウズのアジトへと戻る。
黒牙が待っていた。
報告を聞く。
沈黙。
そして。
ゴン!!
鉄骨が歪む。
「ハゲタカ……」
怒り。
殺意。
空気が震える。
「裏切っただけでは飽き足らんか」
黒牙の目が赤く光る。
「今すぐ始末する」
立ち上がる。
だが。
「待て」
コールディーだった。
黒牙が睨む。
「なぜだ」
「今はタオ区だ」
「フリーを落とせば」
「タオ区は終わる」
「ハゲタカは逃げる」
「だがフリーは逃げない」
理屈だった。
黒牙は黙る。
だが納得していない。
「先に制裁だ」
「いや」
コールディーも譲らない。
「今は拡大が先だ」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
「……好きにしろ」
黒牙は背を向けた。
だが。
その尾羽は怒りで震えていた。
作戦会議
アビ。
アリ。
モンジ。
ウニ。
フウ。
ニール。
全員が集まる。
フリー軍団の縄張り。
監視場所。
補給地点。
逃走経路。
一つずつ確認。
コールディーが笑う。
「今度は終わらせる」
地獄兄弟も頷く。
「次は逃がさねぇ」
その頃。
遠く離れたハグサ山。
猫達はまだ知らない。
新たな戦いが始まろうとしていることを。
タオ区。
クロウズ。
ハゲタカ。
そしてフリー軍団。
夜の風が吹く。
黒い翼が静かに羽ばたいた。
その戦火はまだ小さい。
だが確実に広がり始めていた――。




