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まさか!うちのニャンコが?!―伝説を継ぐ者たち―  作者: トネガワ ワタル


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第2話 外のルール

「……外に出たばかりの猫はな」


 チュウジの声が、静かに落ちる。


「まず、“飢え”を知る」


「次に、“恐怖”を知る」


「そして――」


 わずかに間を置く。


「自分が、どれほど無力かを思い知る」




 朝。


「……腹、減ったな」


 ハリーがぽつりと呟く。


 誰も答えない。


 当たり前だった。


 朝になれば、食べ物が出てくる。


 だが――


 ここには、何もない。


「マジで何もねえのな……」


 アキュラが地面を嗅ぐ。


 乾いた土。


 知らない匂い。


 “食えるもの”の気配がない。


 ナナだけが、顔を上げていた。


「……ある」


「どこに?」


「ゴミ置き場」


 短く言って、歩き出す。





 辿り着いた場所。


 だが――


「……遅かったか」


 ナナが言う。


 袋は破られ、散乱していた。


 匂いはある。


 だが、残っていない。


「なんだよこれ……」


 ハリーが唖然とする。


 その時。


 バサッ


 影が落ちた。





 カラス。


 一羽ではない。


 二羽、三羽――


 いや、もっといる。


「囲まれてる……!」


 ハリーが低く唸る。


 上からの圧。


 逃げ場を塞ぐ配置。


 それは――


 “狩り”だった。





 一羽が急降下する。


「来る!」


 ハリーが反応する。


 だが――


 背後。


「なっ……!」


 別の一羽が、死角から襲う。


 アキュラが弾かれる。


 空から、同時に。


 連携。


「ふざけんなよ……!」


 ハリーが飛び上がる。


 だが、届かない。


 距離が違う。


 空と地上。


 それだけで、圧倒的な差だった。





「下がって!」


 ナナの声。


「今は無理!」


「でも――!」


「死ぬ」


 即答だった。


 ハリーの動きが止まる。


 その一瞬。


 カラスが距離を詰める。


「こっち!」


 ナナが走る。





 狭い路地。


 低い塀。


 ゴミ箱の隙間。


 ナナは迷わない。


 曲がる。


 潜る。


 飛ぶ。


 カラスが一瞬遅れる。


「今!」


 三匹は滑り込む。


 羽音が遠ざかる。


 静寂。





「……はぁ……っ」


 ハリーがその場に崩れる。


「なんだよ……あれ……」


 息が荒い。


「……あれが、外」


 ナナが言う。


 短く。


 冷静に。


「空は、飛べない」


「だから、勝てない」


 ハリーは拳を握る。


「……何もできなかった」





「だから言ったろ」


 上から声。


「甘くねえってな」


「キジオ!」


 屋根の上。


 その隣に、もう一匹。


「ふん」


 キジ子が鼻を鳴らす。


「箱入りのままでいた方がよかったんじゃない?」


 ハリーは何も言えない。





「ここはな」


 キジオが言う。


「“縄張り”がある」


「縄張り……?」


「勝手に動けば、潰される」


 その時。


「……もう動いてるみてえだな」


 低い声。


 空気が変わる。





 足音。


 重い気配。


 現れる。


 サバトラの猫。


「ここ、誰の場所だと思ってんだ」


 ギンジ。


 この地、ウラオ区を統べる猫。





 近づくだけで分かる。


 違う。


 さっきのカラスとは別の意味で――


 “強い”


 ハリーの背に、冷たいものが走る。


 だが。


 逃げない。


「……知らねえよ」


 声が震える。


 それでも、前に出る。





 次の瞬間。


 見えなかった。


 衝撃。


「ぐっ……!」


 ハリーが吹き飛ぶ。


 重い。


 速い。


 アキュラも叩きつけられる。


「な、なんだよ……これ……」





 ナナだけが動く。


 避ける。


 流す。


 だが――


「チッ……」


 押される。


 読めているのに、追いつかない。


 力も、経験も違う。





「……下がる」


「は!?」


「今は勝てない」


 断言。


「死ぬ」


 その言葉に、ハリーは止まる。


 悔しさが、喉に詰まる。


「……くそっ」





「……それでいい」


 チュウジが呟く。


「負けを知る者だけが、強くなる」


「無謀と勇気は違う」


 静かに目を細める。


「そして――」


「ここからが、本当の戦いじゃ」

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