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まさか!うちのニャンコが?!―伝説を継ぐ者たち―  作者: トネガワ ワタル


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第1話 ぬくもりの外側

「……守られて育った者ほどな」


 低く、静かな声が夜に溶ける。


「最初の一歩で、すべてを思い知る」


 屋根の上。


 一匹の老猫が、町を見下ろしていた。


「ぬくもりの意味も」


「外の冷たさも――」


 わずかに目を細める。


「そして、自分の中に何があるのかも、な」


 




「ハリー、どこ行ったのぉ〜?」


 明るい声が家の中に響く。


「ここだよ」


 茶トビの猫が、ソファの隙間から顔を出した。


「あーもう、そんなとこ入って!」


 かーちゃんが駆け寄り、ひょいと抱き上げる。


「重っ……でも可愛い〜!」


「やめろって、苦しい……」


 じたばたと暴れるが、逃げる気はない。


 温かい手。


 柔らかい声。


 安心する匂い。


 ――嫌いじゃない。


「ナナちゃんはほんとお利口さんねぇ」


 窓辺に座るグレーの猫に、細長いおやつが差し出される。


「ほら、“ちゅーる”だよ」


「……別に」


 そっけない返事。


 だが耳は、わずかに動いている。


 ぺろり。


「ほら〜やっぱり好きじゃない」


 かーちゃんが笑う。


 ナナは何も言わない。


 ただ、もう一度だけ舐めた。


「アキュラぁぁぁぁ!!」


「うわあああああ!!」


 カーテンが揺れる。


 黒い影がぶら下がっていた。


「それ新品!!」


 どさっ。


「へへっ」


「ンニャアっじゃない!!」


 とーちゃんに捕まる。


「お前はほんと落ち着きがないな!」


 怒っているはずなのに、どこか嬉しそうだ。


 トビガラ3兄弟。


 ハリー、ナナ、アキュラ。


 彼らは、人間に愛されて育った――飼い猫だった。






 穏やかな時間。


 暖かい空気。


 安心できる場所。


 その中で。


 ナナだけが、外を見ていた。


 窓の向こう。


 風の流れ。


 揺れる影。


「外、そんなに面白いか?」


 ハリーが隣に来る。


「……別に」


 短い返事。


 だが、その目は動いている。


 風が吹いた。


 その瞬間。


 ナナの耳が、ぴくりと動く。


「……来る」


「え?」


 ハリーには、何も分からない。





「よう、箱入りども」


 屋根の上から声が落ちてきた。


「キジオ!」


 ハリーが顔を上げる。


 キジトラの猫が、気だるそうに座っている。


「今日はな、少しでかい話だ」


 キジオの声が、少しだけ低い。


「最近、カラスが増えてる」


「カラス?」


「ただのじゃねえ。“群れ”だ」


 ナナの視線が、わずかに鋭くなる。


「食いもんが減ってんだよ」


 キジオは続ける。


「山も荒れてる。森も削られてる」


「山……?」


 ハリーが首をかしげる。


「ハグサ山だ」


 その名前に、ナナの耳が反応した。





「聞いたことねえか?」


 キジオが笑う。


「“ゾロ”」


 空気が、少しだけ変わる。


「昔な――」


 キジオは語る。


「イノシシの群れが暴れてた」


「人間も手に負えねえくらいにな」


「その時、一匹の猫が立ち上がった」


「猫が……?」


 ハリーが驚く。


「一匹でだ」


 キジオは言い切る。


「逃げなかった」


「何度も挑んで、何度も傷ついて」


「それでも前に出た」


 ナナの目が、わずかに細くなる。


「守るために、戦った猫」


「それが――ハグサ山のゾロだ」


 静寂。


 アキュラがぽつりと呟く。


「かっけぇな……」


 ハリーは何も言えなかった。


 ただ。


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。





 夜。


 静まり返った家。


 だが。


 バサバサ、と音がした。


「……来た」


 ナナが目を開ける。


 窓の外。


 黒い影。


 カラス。


 それも――複数。


 そして、その下で。


 一匹の猫が、囲まれていた。





「助ける!」


 ハリーが飛び出そうとする。


「ダメ」


 ナナが止める。


「なんでだよ!」


「無理」


 短い言葉。


「数も、位置も、全部悪い」


 ハリーは歯を食いしばる。


 何もできない。


 ただ、見ているだけ。


 その間にも、鳴き声は小さくなっていく。


 やがて――


 静かになった。




 翌朝。


「またやられてる……」


 とーちゃんの声が沈む。


「ひどいよ……」


 かーちゃんも肩を落とす。


 畑も、ゴミも荒らされていた。


「……あの子、見ないね」


 昨日の猫は、もういなかった。


 ハリーは何も言えなかった。





 夜。


 三匹は静かに集まっていた。


「……オレ、行く」


 ハリーが言う。


「このままは嫌だ」


 怖い。


 でも。


「何もできないままは、もっと嫌だ」


 沈黙。


 ナナは目を閉じる。


 風の流れ。


 気配。


 そして。


「……最初から、そのつもり」


 立ち上がる。


「ハグサ山」


「ゾロを、確かめる」


 アキュラが笑う。


「おもしれぇじゃん!」





 深夜。


 三匹は、家を出た。


 振り返る。


 暖かい場所。


 守られていた世界。


「……ありがとな」


 ハリーが小さく呟く。


 ナナは何も言わない。


 ただ、前を見る。


 その目は――


 もう、外を見ていた。





「……こうして」


 チュウジの声が重なる。


「あやつらは、ぬくもりの外へ出た」


「理由は違えど――」


「その一歩は、本物じゃ」


 わずかに笑う。


「優しさも」


「勘も」


「運も」


「すべてが試される」


「ここから先は――」


 目を細める。


「戻れぬ道じゃ」


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